パーフェクト種牡馬辞典


山野浩一さん死去


作家で競馬評論家の山野浩一さんが今朝亡くなりました。77歳。つい先日までSNSで活発に発信されていたので、正直なところ信じられないといった気持ちです。

血統業界というものがあるとすれば、山野さんは半世紀にわたってその代表的な存在でした。わたしが血統にのめり込んだのは30年以上前、まだ高校生時代でしたが、書店で見つけて購入した『サラブレッド血統辞典』(二見書房)を繰り返し読んだものです。無味乾燥な説明文ではなく、想像力を刺激する作家らしい文章で綴られていたのが魅力的でした。たとえばギャラントマンの項には「やわらかく美しい馬体と、手に負えない激しい気性を伝えている」と記されていました。その一文だけでギャラントマンのイメージが鮮やかに浮かび上がってきたものでした。いまから考えるとある種の文学作品として読んでいたような気もします。いちばん最初に買った巻は使い込みすぎてボロボロ、ページが落ちているのをテープで留めているという有様でした。

『優駿』に連載された「血統理念のルネッサンス――レットゲン牧場における系統繁殖の研究」はコピーをして熱心に読み込みました。ドイツ血統とその馬産を論じたこの作品の先進性は、その後、世界の血統シーンのなかでドイツ血統の存在感が飛躍的に高まったことでも明らかです。1986年4月号に連載の第1回が掲載されたのですが、冒頭の一節から魅了されました。

「ドイツの名門レットゲン牧場のシュターアピールが凱旋門賞に勝ったのは15年ほど昔だが、およそその頃からドイツのサラブレッド生産に強く傾倒していった一群の馬産家たちがある。プリンス・アガ・カーン殿下、ホワード・ド・ワルデン卿、ダニエル・ウィルデンシュタイン氏といった著名なオーナーブリーダーたちであるが、仮にそれらの人々をドイツ派と呼ぶことにしよう。彼らドイツ派たちは閉鎖的なドイツ馬産界に積極的に入り込み、機会があればドイツ血統を買い入れ、ドイツの生産方式を導入して独自のサラブレッド生産を追求していった」

1990年に馬事文化賞を受賞された『サラブレッドの誕生』(朝日選書)の先駆をなしたような作品で、こちらは血統や配合について、より突っ込んだ思考が展開されています。

「アウトブリードの重要性は決して近親交配の弊害をなくすためではなく、そうした新しい活力の喚起にほかならない。近親交配にマイナスの要素があるのではなく、プラスの面に限界があると考えればよいと思う。近親交配の弊害という考え方はこのようなアウトブリードの重要性を経験的に知ったものの、その説明が困難だった時代に生み出された迷信であろう」

こうした山野さんの血統に対する基本的なスタンスについて触れることができます。

個人的なことを記せば、大学在学中の1989年、血統専門誌『週刊競馬通信』を発行する競馬通信社で働きはじめ、血統業界の末端に連なることになりました。1991年秋、同社が版元となり、わたし自身も制作に関わった『クラシック馬の追求』(ケン・マクリーン著・山本一生訳)が出版され、それを祝すパーティーが新橋の新橋亭で開かれました。競馬界のお歴々が顔をそろえるなかに山野浩一さんの姿もありました。

「血統理念のルネッサンス」を読むうちに、外部の種牡馬を配合する場合はできるだけヘリタビリティの弱い血統を選ぶ、という系統繁殖の方法は、一方で活力の低下を招くのではないか、との疑問が頭をもたげてきたので、思い切って山野さんに直接聞いてみることにしました。突然現れた見ず知らずの若者からパーティーの雰囲気にそぐわないドイツ血統の質問をぶつけられた山野さんは、内心苦笑していたかもしれません。しかし、少しも面倒がることなく、テレビで見るのと同じ口調で、「うん、たしかにそうですね。でも――」と、懇切丁寧に答えてくださいました。

山野さんの本を読まなければ血統の道に進むことはなかったでしょう。感謝の言葉しかありません。合掌。




胆振軽種馬農業協同組合青年部の第1回グループ研修会


一般向けのイベントではなかったので告知はしなかったのですが、去る6月23日、胆振軽種馬農業協同組合青年部による平成29年度胆振青年部グループ研修事業第1回研修会が行われました。競走馬ふるさと案内所の馬産地ニュースで取り上げられましたのでご紹介いたします。
http://uma-furusato.com/news/detail/_id_89841

安平町のノーザンファーム早来、早来ファーム、ノーザンファームイヤリング、追分ファーム、千歳市の社台ファームを訪問し、セレクトセール上場馬のなかから71頭の視察を行いました。栗山求は血統解説の講師としてお招きいただき、1頭ずつ血統や配合の勘所を解説させていただきました。リンク先の画像で身体にタスキのように巻き付けているのは小型の拡声器です。

日本を代表する牧場のえりすぐりの良血馬だけに感銘を受けました。参加者は60名ほどでしたが、牧場を回るたびに従業員の方々の帯同が雪だるま式に増え、最終的には100名を超えていたかもしれません。このような機会を作っていただき、吉田正志部長をはじめ青年部の皆さま、胆振軽種馬農業協同組合の高橋啓太さんをはじめ関係者の方々に厚く御礼申し上げます。なお、今月下旬に行われる第2回研修会は、社台コーポレーションの細田直裕さん、血統評論家の望田潤さんが講師となって行われます。




Holy Bull 死す


94年の米年度代表馬で、90年代のアメリカ最強馬の1頭だった Holy Bull が6月7日、繋養先の米ケンタッキー州ジョナベルファームで老衰のため安楽死となりました。26歳。
http://www.pedigreequery.com/holy+bull



Danzig、Mr.Prospector、Storm Cat といった名種牡馬が覇を競っていた90年代のアメリカ競馬に、それとはまったく無縁の血統構成を持つ芦毛の異端児 Holy Bull が突如現れ、メインストリームを爆走しはじめたときの衝撃は、いまだに忘れがたいものがあります。

19世紀の Himyar にさかのぼる父系。その血統のなかには Nearco も Native Dancer も Princequillo も Buckpasser もありません。にもかかわらず、16戦13勝(うちG1を6勝)の成績を残し、米年度代表馬となりました。

父系図は以下のとおり。

Eclipse(1764)
 Pot8o's(1773)
  Waxy(1790)
   Whalebone(1807)
    Camel(1822)
     Touchstone(1831)
      Orlando(1841)
       Eclipse(1855)
        Alarm(1869)
         Himyar(1875)
          Plaudit(1895)
           Spur(1913)
            Sting(1921)
             Questionnaire(1927)
              Free for All(1942)
               Rough'n Tumble(1948)
                Minnesota Mac(1964)
                 Great Above(1972)
                  Holy Bull(1991)

当時、『週刊競馬通信』という血統専門誌で「血統SQUARE」というコラムを連載していたのですが、Holy Bull の活躍に触発され、Himyar 系の歴史をたどった「甦るオールド・グローリー」というシリーズを7回連載しました(94年9月25日〜11月7日)。「栗山求 Official Website」の「Works」に再録しているのでお読みいただければ幸いです。
http://www.miesque.com/motomu/

産駒の Giacomo がケンタッキーダービー(G1)を勝ち、Macho Uno が米2歳牡馬チャンピオンとなりました。後者は種牡馬として成功し、ブリーダーズCクラシック(G1)を制した Mucho Macho Man を出しました。日本でもダノンレジェンドがダート短距離界のナンバーワンホースとしてJBCスプリント(Jpn1)など9つの重賞を制し、今年から種牡馬入りしています。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2010110102/



ダノンレジェンドは Holy Bull≒Relaunch 2×4がポイントです。種付けする際は、このあたりを刺激した配合をデザインしたいところです。



先週、麦秋S(1600万下・ダ1400m)を逃げ切ったベストマッチョも Macho Uno 産駒です。こちらは Great Above≒Dr.Fager 3×5です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2013110083/





Holy Bull のような異端の名馬は、生産界の裾野が広いアメリカでなければ生まれてこないでしょう。3代父 Rough'n Tumble 以来フロリダで続くサイアーラインです。同じくこのサイアーラインから誕生した Dr.Fager が Fappiano の母の父となり、Fappiano は Unbridled の父となりました。Unbridled は Rough'n Tumble 4×5、Aspidistra 4×4と、Dr.Fager の血統構成を強化した配合です。現代のアメリカ血統は Unbridled を軸に回っています。Unbridled は3年連続米リーディングサイアーとなった Tapit の母の父で、エンパイアメーカー(三冠馬 American Pharoah の2代父)の父、Arrogate(北米歴代最高賞金獲得馬)の2代父です。異端の血が果たす役割の大きさについて考えざるを得ません。
http://www.pedigreequery.com/unbridled






Man o'War 生誕100年


“ビッグレッド”の愛称で親しまれたアメリカの名馬 Man o'War は、ケンタッキーダービーには出走しなかったものの、アメリカの大レースを総なめにし、しかも勝ちっぷりが尋常ではなかったため、現役時代からすでに行ける伝説といった存在でした。通算22戦21勝。ブラッドホース誌が選定した「20世紀の名馬100選」の第1位に選ばれています。
https://youtu.be/tScwlWdpep8

Man o'War は1917年3月29日に誕生しました。3日前にちょうど100年目を迎えたことになります。銅像がある米ケンタッキー州のケンタッキーホースパークでは、誕生日当日、生誕100周年を祝うイベントが開かれました。



『Bloodhorse』誌の最新号(2017年第12号)でも大々的に特集が組まれました。



競走馬時代と種牡馬時代を、過去の記事や豊富な写真を交えて振り返っています。淡々とした記述のなかに感じられるあふれるような敬意が素晴らしいですね。



父系を眺めると、同じくアメリカの歴史的名馬である Lexington の系統は滅び、Secretariat は絶滅寸前。しかし、Man o'War 系はたくましく生き残っています。ブリーダーズCクラシック(米G1)を連覇するなど4つのG1を制した Tiznow は種牡馬としても成功。10頭近い後継種牡馬が現れています。これらはサラブレッド父系の三大始祖の一角である貴重な Matchem 系の末裔でもあります。
http://www.pedigreequery.com/tiznow



22年間の種付けで誕生した Man o'War 産駒は386頭。名前がつけられる前に死んだ7頭を除くと379頭が世に出たことになります。このうち最も重要な産駒は War Relic と War Admiral でしょう。
http://www.pedigreequery.com/war+relic
http://www.pedigreequery.com/war+admiral





前者の息子 Relic はヨーロッパに渡って大成功を収め、War Relic 3×3の In Reality は現代の最重要種牡馬の1頭です。後者は米三冠馬で、米リーディングサイアーにもなったものの、父系を伸ばす力には欠けていました。しかし、ブルードメアサイアーとしては抜群で、Buckpasser、Better Self、Never Say Die、Hoist the Flag、Crafty Admiral、Jet Action、Francis S. といった種牡馬や、Courtly Dee、Glamour、Iron Reward、Key Bridge、Bel Sheba、Wac、Change Water、Priceless Gem といった優れた繁殖牝馬の母の父となりました。
http://www.pedigreequery.com/in+reality
http://www.pedigreequery.com/buckpasser





現代のアメリカ血統は Unbridled を中心に動いています。Tapit の母の父であり、Arrogate の2代父、American Pharoah の3代父でもあります。Unbridled の2代母 Charedi は Dr.Fager の姪にあたる良血ですが、War Relic と War Admiral を煮詰めたような配合構成です。
http://www.pedigreequery.com/unbridled
http://www.pedigreequery.com/charedi





現代の名血の多くは、20世紀半ば以降にアメリカで誕生した名馬群にルーツがあります。当時の最良の種牡馬は米ケンタッキー州のクレイボーンファームに集結していたので、個人的に「クレイボーン血統」と呼ぶことがあります。Unbridled もその1頭です。この牧場で誕生したり繋養された血統は現代のサラブレッドのなかで力強く脈打っており、その何パーセントかは Man o'War が担っているといっていいでしょう。誕生から100年を経てもなおその影響力は弱まることがありません。




モーリス引退式


1月15日の中山競馬終了後、パドックで行われました。本馬場で行われない引退式は珍しいですね。司会進行はモーリスの父スクリーンヒーローの大ファンである砂岡春奈さん。ムーア騎手をはじめ関係者のメッセージがビジョンに流れ、パドック内に招いたファンと触れ合う機会が設けられるなど、ほのぼのとした雰囲気のいい引退式だったと思います。



香港遠征後、乗り運動をしていなかったとのことで、モーリスは元気が有り余っている様子。少しテンションが高かったですね。社台スタリオン事務局の徳武英介さんにうかがったところ、種付け申し込みが殺到しており、権利を得るのは容易ではないようです。いい繁殖牝馬と交配できるはずなのでぜひ成功してほしいものです。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2011100655/



今シーズン承った配合診断では何頭かモーリスを種付け候補に提案させていただきました。Halo−サンデーサイレンスのラインをむしろ強調したほうがいい、というのが現時点の立場で、父の3代母モデルスポートが抱える Tom Fool≒Spring Run 2×3を刺激する配合もいいでしょう。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1955107040/



馬格があるので小柄な繁殖牝馬にも付けやすいと思います。2020年代のわが国の馬産を力強く支えてくれるでしょう。




明けましておめでとうございます


2016年は競馬の売り上げがさらに上昇し、年間を通じて病気をすることなく競馬を楽しめたのでいい1年でした。おかげさまで仕事のほうも順調で、イベントやテレビ出演の回数は増え、『パーフェクト種牡馬辞典』と『血統史たらればなし』を出版し、北海道へは月平均で2回以上行って多くの方々と交流することができました。感謝の言葉しかありません。

あちこちを飛び回って仕事に追われる日々を過ごしているため、余力でやっている当ブログはますます更新の頻度が下がってきてしまいました。決して怠けているわけでも飽きたわけでもなく、物理的に時間が取れないだけであることをご理解いただければ幸いです。競馬に対するのめり込み方は年々最高値を更新しており、365日競馬漬けの日々を送っております。この年末年始も原稿を書きながら過ごしていました。ちなみに、締め切りに追われて時間的な余裕がなく、まだ年賀状を書いておりません。これから書きます^^

2017年もいろいろな現場に足を運び、多くの方々に出会い、知見を深められたら、と考えております。当ブログの読者の皆さまには心から感謝しております。本年もどうぞよろしくお願いいいたします。




フランケル様に拝謁


英ニューマーケットでセリや種牡馬を見学してきました。タタソールズの「ディセンバー繁殖牝馬セール」は、これまでにドナブリーニ(ドナウブルーとジェンティルドンナの母)をはじめ多くの名繁殖牝馬が日本人に購買されてきました。今年も有名どころの生産者が集結し、血統や馬体を吟味して将来のクラシック馬の母を探していました。



日本勢の最高価格馬は Euro Charline。ノーザンファームが75万ギニー(約1億1000万円)で落札しました。ビヴァリーD.S(米G1・芝9.5f)を勝ったほか、ファルマスS(英G1・芝8f)、ロッキンジS(英G1・芝8f)、ドバイターフ(首G1・芝9f)などで2着となっています。ドバイターフでは鋭い末脚でリアルスティールに半馬身差まで迫りました。



繁殖牝馬セールは4日間(11月29日〜12月1日)の日程。有力馬は2日目に集中して上場されます。著名なバイヤーは3日目以降は参加せず、仏ドーヴィルで行われるアルカナセール(12月3〜6日)に移動するというのが例年のパターンです。社台グループのスタッフもそのスケジュールで動くとのことでした。

こちらは11月30日に帰国しなければならないため、フランスへは行かず、滞在最終日は合田直弘さんにお願いして同じニューマーケットのバンステッドマナースタッドを見学してきました。

繋養数はわずか5頭ながら、Frankel、Oasis Dream、Kingman、Dansili、Bated Breath というラインナップ。世界最高クラスの名門です。

5番目に引き出された Frankel は、母の父デインヒルの影響を感じさせる巨大なトモが印象的で、目の前に立つとまるで筋肉の壁のようでした。それでいて動きが柔らかいのが素晴らしいですね。







日本にもこれからかなりの数の産駒がやってくる予定です。どの子もミスエルテやソウルスターリングのような活躍をするわけではないと思いますが、重賞戦線を賑わす子はやはり相当な数にのぼるでしょう。

来年から産駒がデビューする Kingman は現役時代8戦7勝(うちG1を4勝)。Frankel と同じく種付け申し込みが殺到しており(300頭以上とのこと)、格の高い繁殖牝馬でないと事前審査でお引き取り願うことになるそうです。血統構成が50%同じ Oasis Dream とは顔も雰囲気もよく似ていますが、こちらのほうがやや脚長でビュンと弾けそうな馬体です。どう考えても成功するだろうという馬で、Frankel を脅かす可能性もあるでしょう。





慌ただしい滞在でしたが、とても勉強になりました。またぜひ行きたいですね。






Galileo の凱旋門賞


第1Rのマルセルブサック賞(G1・芝1600m)の勝ちタイムは1分35秒85。第2Rのジャンリュックラガルデール賞(G1・芝1600m)は1分35秒53。牝馬と牡馬の2歳G1がこの時計ですから、馬場コンディションは前日に比べると良化していました。

しかし、勝ち時計よりもはるかに注目すべきはレース内容です。土曜日の競馬のあと、仮柵を外したのですが、その影響で前に行った馬が止まりません。第3Rのオペラ賞(G1・芝2000m)も行った行ったの決着。

仮柵は本来の内ラチから12mの地点に張り巡らされていたので、日曜日の競馬は前日に踏み荒らされていない場所を走ります。理屈の上では平等なはずですが、レースを見ていると、内ラチから1、2頭分のごく狭いスペースを通った馬しか勝負になっていません。路盤に何か問題があるのではと勘ぐりたくなるほど露骨に伸びが違っていました。先に行った馬が残るのも、そのスペースを通っているからです。

「凱旋門賞パブリックビューイング」に電話出演した際にも、前に行かなければまったく勝負にならず、中団以下でレースを進めて外を回らされたらノーチャンス、という話をさせていただきました。もちろん、わたしが気づく程度のことは、凱旋門賞出走馬の各陣営は把握していたはずです。

その結果、凱旋門賞は超ハイペースとなりました。位置を取りにいかないと勝てないのですから、先行争いが激化するのは必然です。そのなかに◎マカヒキ(2番人気)もいました。賢明な判断でしょう。

ただ、馬は生き物ですから、机上の計算どおりには動きません。スタートから出していく競馬をしたのはデビュー以来初めて。そのため、ハイペースだったにもかかわらず序盤に掛かり気味となりました。なおかつ、内に潜り込むことができず、終始外を回らされることになりました。3コーナー過ぎの坂の下りでは5〜6頭分の外。枠順と馬場状態から、こうした競馬になったのも仕方がなかったとはいえ、この日の好走パターンとはかけ離れたものです。さすがに厳しかったですね。4コーナーを回って早々にフェードアウトしていきました。○Postponed(1番人気)、△Left Hand(5番人気)といった人気どころも内に潜り込めず馬券圏内に入れませんでした。
https://youtu.be/AKxROR-CuOo



1着△Found(4番人気)、2着 Highland Reel(10番人気)、3着△Order of St George(8番人気)は、すべて Galileo 産駒。そしてエイダン・オブライエン厩舎に所属するクールモア軍団です。見事というしかありません。ヨーロッパのスーパー種牡馬と天才調教師のコンビが鮮やかに上位を独占しました。

勝った Found の鞍上はライアン・ムーア。12番枠と決して恵まれた枠ではなかったのですが、先に行くことよりもまずラチ沿いをキープすることを優先し、そこからじわじわポジションを上げて行きました。2着 Highland Reel はチームのラビット役だったので当然先に行きます。マカヒキを内に入れないようにブロックしたのもひょっとしたら作戦だったのかもしれません。3着 Order of St George は大外16番枠から1頭だけ馬群を離れて外ラチ沿いを進み、コースをショートカットするように2番手に付けました。デットーリ騎手の大胆な作戦が当たりました。どうすれば勝てるのか、ということをチームで綿密に戦略を練り、見事に結果を出しました。これぞプロフェッショナルの仕事です。

勝ちタイムの2分23秒61は、86年の仏ダービーで Bering が記録した2分24秒1を30年ぶりに更新するものです。仏ダービーは05年から2100mに短縮され、現在シャンティイで2400mのG1は行われていません。今回の Found のレコードは、同じくシャンティイで開催される来年の凱旋門賞で更新されなければ、ほぼ永久に残りそうです。



土曜日よりも馬場コンディションが回復していたとはいえ、パンパンの良馬場ではありません。稍重に近い良馬場でしょうか。そのなかを1ハロン平均12秒を切る超ハイペースで展開した競馬は、恐ろしくハイレベルなものでした。

Galileo は、パワーと底力を必要とする馬場で圧倒的な力を発揮します。それゆえに、イギリスやアイルランドほど馬場がハードではないフランスの凱旋門賞では連対した実績がなく、今年はロンシャンよりもより平坦なシャンティイ開催なので、なおさら好走する可能性は低いと考えていました。

しかし、英愛種牡馬ランキングで計7回首位に立ち、歴史的名馬 Frankel の父となり、今年の英愛サイアーランキングで2位にトリプルスコアをつけて独走しているといった数々の偉績は、一介のパワー型種牡馬にできることではありません。ジョッキーの好判断があったにせよ、洋芝における究極の持続力勝負で化け物じみた力を発揮し、スピード負けすることなく驚異的なタイムで上位を独占した今回の結果は、Galileo の新たな可能性を示したものと言えるでしょう。と同時に、イギリスとアイルランド競馬の奥深さをあらためて認識させられました。Galileo に見られる並外れた持続力は、日本の競馬でいくら選抜と淘汰を繰り返したところで、血統的に備わっていくものではありません。
http://www.pedigreequery.com/found9



マカヒキの父ディープインパクトは、その父サンデーサイレンスに由来する瞬発力を伝えます。ラストの切れ味は天下一品です。ただし、超ハイペースの消耗戦になると、脚が溜まらずに持ち味を発揮できないまま敗れるともしばしばです。今回のマカヒキは、得意技を繰り出す前にそれを封じられてしまい、なすすべ無く敗れました。枠順抽選など運の悪い部分もありましたが、ここまで負けてしまうのは実力が及ばなかったということです。そして、持続力勝負に対する弱さは、日本の競走馬に共通する弱みでもあり、それは我が国の競馬のスタイルに根ざしたものである以上、改善するのは難しいと感じます。

レースが終わったあと、1コーナー寄りにある待機馬房のエリアに、金子真人オーナーとそのご家族が訪れました。大きく負けてしまったので、マカヒキの体調を確認するためにいらっしゃったのでしょう。その4時間ほど前、同じく金子オーナーが訪れたときには、リラックスムードで厩舎スタッフともどもにこやかな表情でした。しかし二度目は、負けた直後とあって笑みは見えず、馬房から出されて曳き運動をするマカヒキを、金子オーナーと友道調教師が無言でじっと眺めていました。



歩様に異状は見られず、蹄鉄は4つ装着しており、鼻出血もありません。要するにアクシデントはなかったということです。しかし、消耗の激しいレースの後だけに、やはり疲れて見えました。眼の力が弱い、と思いました。オーナーが帰ったあと、洗い場で水を掛けられているときに、我慢強いマカヒキが厩務員に甘える仕草を見せました。そのときふと胸を衝かれる思いがしました。サラブレッドは走るマシーンではなく、感情豊かな生き物です。この1ヵ月半、ベストを尽くしてよく頑張ったと思います。



シャンティイグヴィユ駅から電車に乗り、窓外の田園風景を眺めながら、Galileo とディープインパクト、日本競馬の今後について思いを巡らせているうちに、あっという間にパリ北駅に到着しまいた。朝から何も食べていなかったので、目に付いたレストランに飛び込み、フィレステーキを注文しました。



毎年お約束ですが、これを食べないとパリに来た気分がしません。日本馬がどんな成績であろうと美味しいものは美味しいと再確認しました。ビール付きで18ユーロですから安くてビックリです。

マカヒキとその関係者の皆さま、本当にお疲れ様でした。存分に楽しませていただきました。ありがとうございます。今回の旅でレース以外に印象に残った出来事は、土曜日の競馬場でアレック・ヘッドに握手をしてもらったこと。92歳とは思えぬ若々しさです。大きく柔らかな手でした。




土曜日のシャンティイ


行きの電車のなかで、競馬観戦に訪れたとおぼしき非フランス語圏の若者2人組(おそらく中東系)がシャンティー云々としゃべっていたところ、そばにいた妙齢のご婦人が優しく発音を咎めました。「ノンノン、シャンティーじゃないの、シャンティイ」。最後の「イ」の部分をあえて強調するような発音でした。「シャンティイ?」「そう、シャンティイ」。

日本だけじゃないんだな、と思いました。昔は「シャンティー」という表記でしたが、いつのころからか「シャンティイ」と変わり、いまではそれに統一されています。ただ、会話のなかで「シャンティイ」とは言いません。相変わらず「シャンティー」です。フランス人以外には「シャンティイ」という発音は難易度が高いような気がします。

下見に訪れた前日の競馬場はいわばノーメイクでしたが、一夜明けるとフルメイクの華やいだ雰囲気に包まれていました。スタンドはロンシャン競馬場よりもかなり小さく、日本の地方競馬場よりも小さいと感じます。ただし、古風なだけに味があり、小さくても素晴らしいですね。



ロンシャンは何度も訪れているので、スタンドのどこに何があるのか把握できていたのですが、シャンティイは勝手が分かりません。トイレを探すのも一苦労です。

土曜日は不自由なく観戦できたものの、場内が狭いだけに、どっと観客が押し寄せるであろう日曜日にどんな状況になるのかやや不安です。東京競馬場で行われる「凱旋門賞パブリックビューイング」に電話で生出演する予定ですが、人ごみのなかで電話をするわけにはいかず、ほぼノンストップで音を流し続ける場内スピーカーの音量が大きいため、スタンド付近で通話するのは不可能です。競馬場内の静かな場所、つまりはスタンドから遠く離れた場所まで行かなければならないのですが、レース30分前にそんな場所へ行ってしまうと、スタンドに戻ってきたときにはすでに観戦する場所が見つからない可能性が高いと思われます。わざわざフランスまで行って場内テレビでレースを観戦したらそれこそ笑い話ですが……。

場内ではところどころ水たまりができていたので、金曜日の夕方から土曜日の未明にかけて降った雨は、パリ市内よりも競馬場のほうが強めだったのではないかと感じました。

土曜日に行われた5つの重賞レースは、例年はロンシャン競馬場で行われるため、過去の年とタイム面の比較ができません。ただ、ひとつひとつのレースを観るかぎり、時計が掛かっているように感じました。Galileo 系2頭を含む4頭が Sadler's Wells を持ち、ドイツ血統を抱えた馬の健闘も目立ちました。

第4Rのドラール賞(G2・芝2000m)などはその典型です。馬群を割った Potemkin が優勝し、終始外を回った断然人気の Zarak はラストで脚が止まり3着に終わりました。
https://youtu.be/FiNGTsP8oXk



勝ちタイムは2分06秒54。パワー型でも対応可能な馬場といえるでしょう。父 New Approach は Galileo 系で、母はドイツ血統。息の長い末脚でじわじわ伸びてきました。負けた Zarak は女傑 Zarkava の息子。凱旋門賞にも登録があった馬です。前が止まらない展開になって外を回らされると厳しいですね。Potemkin の鞍上のペドロサ騎手は、短期免許をもらって関西で騎乗していたこともあります。パナマ出身ながらドイツで長年活躍中。勝ったあと引き揚げてくるときに観衆から「エディ!」と盛んに声援を受けていました。フランスでもなかなかの人気です。
http://www.pedigreequery.com/potemkin8



最初のほうのレースは前が止まらない感じでしたが、馬場が乾いてきた影響もあるのか、レースが進むにつれて差しも届くようになってきました。この日のメイン、第5Rのカドラン賞(G1・芝4100m)は後方に控えていた Quest for More と Vazirabad が1、2着。
https://www.youtube.com/watch?v=MW0Ohsrb_40

日曜日はもっと馬場が乾いてきます。仮柵を取ったばかりの馬場なので前が止まりづらいとは思いますが、第4Rあたりなら差せる馬場になるだろうと思います。
http://www.pedigreequery.com/quest+for+more



馬場状態と枠順と展開。やはりこの3点が大きな鍵となります。そして、直線が長いので、どんな競馬になってもラストの末脚勝負となる点は変わりません。マカヒキが歴史を作ることを期待したいですね。ちなみに、前走のニエル賞で3着に負かした Doha Dream がこの日の第1Rショードネイ賞(G2・芝3000m)を断然人気で勝ちました。
http://www.pedigreequery.com/doha+dream





フランスギャロは、日の丸の旗を持った職員を場内に配置するなど、来仏する日本人客に配慮している様子がうかがえます。凱旋門賞のコマーシャル映像にも一瞬ではありますが日本人の映像が流れました。見ると、藤岡佑介騎手でした。



10月2日(日)は以下のレースが行われます。

マルセルブサック賞(G1・芝1600m)
ジャンリュックラガルデール賞(G1・芝1600m)
オペラ賞(G1・芝2000m)
凱旋門賞(G1・芝2400m)
アベイドロンシャン賞(G1・芝1000m)
フォレ賞(G1・芝1400m)




シャンティイ競馬場を下見


金曜日は例年どおりサンクルー競馬場で開催が行われていたのですが、毎年行っているので観戦意欲が湧かず、今年はシャンティイ競馬場の下見をすることにしました。

パリ北駅から電車で30分弱、ローカル感漂う小さな駅舎とプラットホームのシャンティイグヴィユ(Chantilly-Gouvieux)駅に到着。ここに来るのは17年ぶりです。



初めて来た1999年は、同じくパリ北駅から始発電車に乗り、早朝というよりはまだ星が光る夜のうちに到着(この時季のパリの日の出は午前8時ごろ)したあと、まずはシャンティイ調教場のリヨンコースを目指しました。森の中を貫く全長4kmの直線コースです。一緒に行ったのは前年に来た経験があるというカメラマンの杉浦潤一さん。灯りのまったくない漆黒の樹海のなかへ懐中電灯ひとつでずんずん入って行きます。その背中を追っているうちに不安になってきて「大丈夫ですか?」と声を掛けると、「去年来たときに、目印のテープを木にくくりつけておいたから大丈夫ですよ」と自信満々の回答。しかし、テープが丸一年のあいだ、風雨に晒されてそのまま残っているとはとても思えません。「あれ、おかしいなぁ、無いぞ」。突然発せられた杉浦さんの声に緊張が走ります。頭に浮かんだのは“遭難”の二文字。10分ぐらい真っ暗な森のなかをさまよったあと、「あった!」。無事、リヨンコースにたどり着くことができました。森の中の直線コースはあまりにも長すぎて端から端まで肉眼で見渡すことができません。馬がいないとき、たまに鹿の親子がひょっこり姿を現してたたずんでいたりもしました。こんな場所で日々調教をしたらそりゃ馬が強くなるわけだ、と思ったものです。

そんな昔の思い出を反芻しながら、徒歩でシャンティイ城を目指します。向正面の外周を右回りに歩いて行くと見えてきます。内部には有名な馬の博物館があり、これも以前の来訪時に見学しました。



シャンティイ城は3コーナーの坂の頂上にあります。ここから4コーナーに向けて下り坂となります。3〜4コーナーの中間の最も低い地点から3コーナーを振り返るアングルがわかりやすいですね。シャンティイ城が最も高い位置にあり、手前に向けて下ってきているのが分かります。勾配は京都の坂と同じぐらいでしょうか。



3〜4コーナー中間から4コーナーへ向けて若干上がっていき、直線半ばまでわずかながら上り坂となっています。ゴール付近は平坦です。4コーナーからゴール方向を望むとこんな感じです。



シャンティイ競馬場のコース図は以下のとおり。ジャパンスタッドブックインターナショナルのサイトにあるものをお借りしました。
http://www.jairs.jp/contents/courses/kaigai/kaigai_image/chantillycourse_web.jpg

場所をホームストレッチの反対側、芝2400mのスタート地点に移動します。スタンドから見て左側の奥まった場所です。

ゲートの設置場所から前方を眺めるとこんな風景が見えます。木陰に隠れて見えづらいのですが、右奥にスタンドが建っています。



300mほど走ったところで走路が二股に分かれます。2本の走路のうち左側に進路を取ります。分岐点の画像は以下のとおり。



左の走路を直進し、シャンティイ城のある3コーナーを目指して向正面を斜めに進みます。そこからぐるっと1周して写真右奥から手前に帰ってくるというわけです。遠くにゴール板も確認できます。

コースの起伏はさほどではなく、芝丈も短く、日本のものと変わらない印象です。金曜日の夕方からポツポツ雨が降ってきて、かれこれ8時間ぐらい、断続的に小雨が降っています。ザーッというしっかりとした雨ではないので馬場が大きく悪化することはないでしょう。もっとも、現在地のパリ中心部とシャンティイ競馬場は40kmほど離れているので、現地がどんな状況かは分かりません。

10月1日(土)に行われるレースは以下のとおりです。

ショードネイ賞(G2・芝3000m)
ロワイヤリュー賞(G2・芝2400m)
ドラール賞(G2・芝2000m)
カドラン賞(G1・芝4100m)
ダニエルヴィルデンシュタイン賞(G2・芝1600m)






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