内△レイデオロ(2番人気)、外○スワーヴリチャード(3番人気)の200m以上に及ぶ叩き合いは、4分の3馬身差で前者に軍配が上がりました。
https://youtu.be/zH7REPh48CY?t=1m33s
見てのとおりルメール騎手の好騎乗が勝利の決め手です。序盤は後方を追走していましたが、スローペースと判断して向正面で一気にマクって2番手まで上昇。「12秒8−13秒3」とレースのなかで最もペースが緩んだ地点でした。動くタイミングはベストだったと思います。レース後、検量室から本馬場への向かう地下道で、レイデオロを管理する藤沢和雄調教師は歓喜するルメール騎手に抱きつかれ、最高の笑顔でこう言いました。「オリビエ(ペリエ騎手)のほうが上手いと思っていたけどあなたの方が上だね」。報道陣からドッと笑いが起こりました。
ルメール騎手が上手かったといっても、それに応える馬の力があってこそ。サラブレッドの能力は走力の最大値で評価されがちですが、競馬はセパレートコースのタイムトライアルではありません。さまざまなレースパターンへの対応力も競走馬の強さの重要な要素です。道中で動けない馬、動いてしまうと味がない馬、そんなタイプは少なくありません。レイデオロはルメール騎手の指示どおり馬群の外を上昇し、逃げ馬の直後で折り合いました。この自在性は見事です。
中山コースでの鮮やかなマクリ勝ち、サンデーサイレンスを持たない血統構成、そして回転の速いピッチ走法から、トップクラスに伍して戦った場合、東京の長い直線では伸び負けするのではないか、というのがレース前の見立てでした。勝たれてしまった以上、間違っていたわけですが、スローペースがハマった部分も少なからずあったのではないかと思います。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2014106201/
Kingmambo 系は、抜群の筋力を伝えて芝・ダート双方で活躍馬を送り出しており、芝向きの産駒は、しなやかに切れるサンデー系とはまた別の、フィジカル面の強さをベースとした脚の速さを持ち合わせています。じわじわと加速してラストが切れるサンデー系に対し、Kingmambo 系はわずかな時間でトップスピードに乗れる爆発力があります。
2010年の日本ダービーは今回と同じく超スローペースでした。道中を三分割したラップを比較してみます。勝ちタイムはいずれも2分26秒9です。
2010年 48秒8−52秒3−45秒8
2017年 49秒9−50秒5−46秒5
2010年は中盤が大幅に緩んだためラストが異常に速くなり、今年は序盤、中盤と平均して遅い流れ。このあたりは若干違うものの、上がりが極限の脚力勝負となったのは同じです。2010年の1着馬エイシンフラッシュ、2着馬ローズキングダムはいずれも Kingmambo 系でした。今年のレイデオロと同じです。これは単なる偶然ではないような気がします。
Kingmambo 系はスピードの持続力にも秀でているので、好走するにはハイペースとなるか超スローペースとなって短い区間で爆発力を活かすか、このどちらかだったと思いますが、今回は後者の展開となり、うまく持ち味を発揮することができました。キングカメハメハ産駒のダービー馬は2015年のドゥラメンテ以来2年ぶり2頭目です。
レイデオロはサンデーサイレンスこそ持っていないものの、ディープインパクトと同じウインドインハーヘアの牝系に属しています。今年の3歳世代では、ほかにアドマイヤミヤビ(クイーンC)、プラチナヴォイス(スプリングS−3着)、ブルークランズ(カーネーションC−2着)といった活躍馬が出ています。ウインドインハーヘアの娘たちのなかで最も勢いが著しいのはレディブロンド分枝。レイデオロの2代母です。
レディブロンドは脚つきの良くない馬で、5歳6月にデビューを果たすという異例の競走馬でした。レイデオロと同じ藤沢和雄調教師が管理し、デビューから5連勝を飾ってスプリンターズS(G1)に挑み、残念ながら4着。これが引退レースとなりました。繁殖成績は優秀で、子と孫の代で競走年齢に達した5頭はすべて勝ち上がり、そのなかにはレイデオロのほかにゴルトブリッツ(帝王賞)が含まれています。
母ラドラーダは現役時代に4勝を挙げ、阪神牝馬S(G2)で6着という成績があります。母の父シンボリクリスエスは頑健な四肢を伝えるので、これがレディブロンドの弱点を補っています。理想的な配合といえるでしょう。シンボリクリスエスはブルードメアサイアーとして頭角を現しており、現3歳世代に限っても、レイデオロのほかにアドミラブル、ミスパンテール、マイネルバールマン、ローズプリンスダムなど活躍が目立っています。
レイデオロは昨年の『競馬王のPOG本』の「栗山ノート」で推奨した馬で、赤本の版元である光文社POGで指名した馬でもありました。同POGでダービー馬を指名したのはディープスカイ以来9年ぶりです。
2着○スワーヴリチャード(3番人気)は、位置取りは申し分なく、残り200mでは突き抜けるかと思ったのですが、あとひと押しが利きませんでした。馬主はNICKS。その代表である諏訪守さんは友人で、この1年間に何度か会食し、スワーヴリチャードへの熱い思いを繰り返し聞いていました。
諏訪さんはわたしよりも年下ですがほぼ同年代。馬見の能力、情熱、志の高さ、人格、すべてにおいて尊敬に値するホースマンです。これと見込んだ馬に信念をもって資金をつぎ込み、一本釣りするスタイル。サトノダイヤモンドのアンダービッターでもあります。若いころから熱狂的な競馬ファンで、クラブ法人で数々の当たりを引き、それに飽き足らず馬主になろうと決意し、その資金作りのために事業を始め、それを軌道に乗せて馬主資格を取得。いまや高馬を買えるまでになりました。とても真似できません。
ダービーは諏訪さんを応援する方々と一緒に観戦しました。馬主席エリアで立ち見です。最後の直線、スワーヴリチャードが外から伸びてきたとき、諏訪さんは「リチャード! リチャード!」と大声を張り上げました。拳で膝を叩き、身体を折り曲げ、力の限り叫び続けました。結果は2着。その瞬間、両拳で頭を抱えこみ、動きが止まりました。ひと呼吸置いて後ろを振り返り、我々の顔を見ながら「みんなゴメン」。
一生をかけた夢が破れる瞬間は残酷なものです。そんな状況でもなお我々の気持ちを考えるのが諏訪さんのお人柄です。だからこそ大勢のファンが付いているのでしょう。2着とはいえ、持ち前のバイタリティと才覚でここまできたのは偉大というほかありません。ダービーは毎年やってきます。きっといつか頂点に立てるはずです。
スワーヴリチャードは、その全姉エマノンともども「栗山ノート」のハーツクライの項で世代ナンバーワンに評価しました。赤本の「オススメ10頭」にも入れました。エマノンはPOG期間内に1勝しか挙げられませんでしたが、この配合が走らないはずがないと考え、スワーヴリチャードも同じく1位に評価しました。この先、いくつかタイトルを獲って種牡馬入りすればおもしろいと思います。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2014106083/
3着アドミラブル(1番人気)は、結果論ですが向正面で動かなかったことが敗因です。動けなかったのかもしれません。いずれにしても前に行った馬しか勝負にならない超スローペースですから、後方待機で外を回らされる競馬では苦しかったですね。後方から伸びてきたのはこの馬だけ。負けはしましたが強い競馬だったと思います。菊花賞(G1)でリベンジを果たしてほしいところです。
馬券はマルチ設定だったので△○◎で3連単1万1870円的中です。
最終レースが終わったあとは新宿に移動し、望田潤さんをはじめ元同僚が集まって総勢6人で飲み会。美味しい料理をつつきながらさまざまな話題で盛り上がりました。仕事に追われる日々なのでこうしたひとときは最高に楽しいですね。