ヤマニンゼファー死す


安田記念(G1)を連覇し、天皇賞・秋(G1)も制したヤマニンゼファーが老衰のため死亡しました。前日まで変わった様子はなかったそうですが、5月16日の朝、逝きました。29歳。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1988101069/



派手な追い込み勝ちを決めた3歳春の新馬戦(ダ1200m)は、16頭立ての12番人気だったので、展開がハマっただけかなと思ったのですが、配合を調べてみて相当な器ではないかと思い直しました。

父ニホンピロウイナーは80年代を代表するマイル王。Habitat 系は70〜80年代にイギリスで一世を風靡したスプリンター〜マイラー血統で、スピード豊かなアメリカ血統で構成されていたので重厚なヨーロッパ血統とうまく合いました。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1980106362/



Habitat の息子スティールハートは、母の父に Hyperion と Son-in-Law を併せ持つ Abernant を持ち、その息子ニホンピロウイナーも同様の配合構成のチャイナロックを母の父に持ちます。要するに Abernant≒チャイナロック3×2です。



いずれも2代父が Hyperion で、母の父が Rustom Pasha(その父 Son-in-Law)。Lady Josephine の牝系から生まれた Abernant はスピードタイプ、そうではないチャイナロックはスタミナタイプ、という個性の違いはあるものの、よく似た配合構成です。

ちなみに、ニホンピロウイナー以外のスティールハートの代表産駒、タカラスチール(マイルCS)とナルシスノワール(重賞3勝)は、いずれも Swaps を抱えています。Swaps は Hyperion と Son-in-Law の組み合わせから成る代表的な血なので、ニホンピロウイナーと似た配合構成といえるでしょう。

ヤマニンゼファーの母の父は Blushing Groom。80年代に Rainbow Quest(凱旋門賞)や Nashwan(英ダービー、英2000ギニー、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS)といった息子たちがヨーロッパのビッグレースを制覇し、Northern Dancer 系に対抗する新たな血脈になるのではないか、という期待が盛り上がっていたころです。ヤマニンゼファーと同じ91年にデビューしたアラジは、グランクリテリウム(仏G1)とブリーダーズCジュヴェナイル(米G1)を制し、欧米双方の2歳チャンピオンに輝きました。

Blushing Groom の2代母の父 Tudor Minstrel は、Abernant(スティールハートの母の父)とよく似た構成です。もちろん、Hyperion と Son-in-Law が骨格となっているので、チャイナロックとも似ています。つまり、ヤマニンゼファーは Abernant≒チャイナロック≒Tudor Minstrel 4・3×5です。



さらにいえば、ヤマニンゼファーの4代母の父 Epigram は Son-in-Law×Flying Orb+St.Simon という構成なので、Abernant とチャイナロックの母の父 Rustom Pasha とよく似ています。Rustom Pasha≒Epigram 6・5×5です。



かなりよく出来た配合ではないか、というのが当時の印象で、欧州最新型の Blushing Groom の活力も取り入れています。したがって、のちにヤマニンゼファーがクラスの壁を突破して重賞戦線で活躍を始めたとき、とくに意外さはありませんでした。これだけの配合なのだから活躍して当然だろう、と。

それでも、芝2000mの天皇賞・秋を勝ったときは驚きました。父ニホンピロウイナーと同じくマイラーだろうと考えていたので、距離延長に耐えて4角先頭から長い直線を粘り抜いたレースぶりは感動的でした。あの頑張りは Hyperion と Son-in-Law の底力だったのかもしれません。
https://youtu.be/KlPwWE6a7_8?t=1m35s

種牡馬としては残念ながら成功したとはいえず、武蔵野S(G3)を勝ったサンフォードシチーがJRAの平地重賞を勝った唯一の産駒です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1995100892/



同馬の母テイムズシチーは、Hyperion と Son-in-Law の組み合わせから成る Aureole とテューダーペリオッドを抱えていました。ヤマニンゼファーの配合的核心である Abernant≒チャイナロック≒Tudor Minstrel 4・3×5を継続した配合から代表産駒が出たことは、おそらく偶然ではないでしょう。

とくに Aureole はチャイナロックと、テューダーペリオッドは Abernant とよく似ています。このほかプリメロ=Harina 6×5・7を含めて素晴らしい配合構成だったので、当時、雑誌の取材を受けたときなどに、好きな配合馬としてサンフォードシチーの名を挙げていたのは懐かしい思い出です。





ヤマニンゼファーの血は、日高の生産馬のなかにもあまり見かけなくなりました。ここ最近では10年の小倉2歳S(G3)を勝ったブラウンワイルドが目立つぐらいです。こうした名血が生産界にわずかな爪痕を遺しただけで消え去るのは寂しいかぎりです。




ヴァナヘイム楽勝


先週の2歳戦でいちばん印象に残ったのは、日曜日の小倉5Rに組まれた新馬戦(芝1800m)です。単勝1.3倍の1番人気に推されたヴァナヘイムが馬なりで楽勝しました。あまりにも力が抜けていたので、勝ちっぷりについてとくに語ることはありません。ただ、パドックからレースに至るまでの落ち着き、道中の大人びた立ち回り、安定感のあるフットワークには大物の相が見て取れました。クラシック路線に乗ってくる馬でしょう。
https://youtu.be/fzgdLueDnTE?t=11s

5月3日にグリーンチャンネルで放送された「JRA-VAN Presents ザ・POGドラフト会議2016−2017」で1位指名した馬です。また、5月20日に行われた「公開ドラフト」では1位指名候補に挙げたものの、同じく1位指名候補に挙げた美野真一さんと競合してクジ引きとなり、残念ながら当たりクジを逃して取ることができませんでした。

馬産地でヴァナヘイムを見て惚れ込んだ美野さん曰く、「他の馬のギャロップよりもヴァナヘイムのキャンターの方が速い」「今まで見たことがない運動神経を感じた」とのこと。わたしは馬産地で取材をしたわけではなく、配合で選んでいるので、そうした言葉を聞くと心強いですね。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2014105907/



母グルヴェイグはマーメイドS(G3)の勝ち馬で、年度代表馬エアグルーヴの娘にあたる良血。アドマイヤグルーヴ(エリザベス女王杯2回)の4分の3妹、ルーラーシップ(クイーンエリザベス2世C)の半妹でもあります。

父がキングカメハメハなので、二冠馬ドゥラメンテとは8分の7同血で、なおかつルーラーシップとは4分の3同血です。





ディープインパクトは産駒が総じてコンパクトなので、娘たちが産んだ子も比較的小さめです。そこは留意すべき点ではあるのですが、血のポテンシャルは高いので、サイズ的に問題のないものには大きな期待が掛けられます。リーディングサイアーを連続して何度も取るような種牡馬が母の父として失敗したという例は知りません。いずれ母の父としても頂点に立つ日が来るのではないかと思います。

ヴァナヘイムはデビュー戦の馬体重が472kg。馬格は十分です。今年デビューした2歳馬のなかでは最も器が大きく、秋デビューを待つトップクラスのディープインパクト産駒と比較しても互角といえる存在でしょう。来春が楽しみです。




カルティエ賞最優秀2歳牡馬 Air Force Blue


通算成績5戦4勝(2着1回)。昨年の夏から秋にかけて、フェニックスS(愛G1・芝6f)→ナショナルS(愛G1・7f)→デューハーストS(英G1・芝7f)と3連勝し、カルティエ賞最優秀2歳牡馬に輝きました。勝ち方がいいですね。序盤は馬群のなかに控え、勝負どころで仕掛けられると俊敏に反応し、鋭く伸びて他馬を問題にしません。
http://www.pedigreequery.com/air+force+blue



父 War Front は、その父 Danzig の24歳時の種付けで誕生しました。Danzig 系の発展を担った主な後継種牡馬は、デインヒルにしても Green Desert にしても、すでに80年代には誕生しているので、それらとは1〜2世代分のタイムラグがあります。

「Danzig×Mr.Prospector 系」なのでスピードは申し分なく、母の父 Rubiano は米リーディングサイアー Tapit の母の4分の3兄なので、時流にも合致しています。その奥の「Forli×Round Table」というクレイボーンファーム系の芝血統も、速い時計に対応可能なポテンシャルを感じさせます。

現役時代はダート6ハロンのG2を勝っただけですが、種牡馬として大成功し、今年の種付け料は20万ドルです。新種牡馬 American Pharoah と並んで北米第2位(1位は30万ドルの Tapit)。きわめて評価が高い種牡馬です。アメリカの軽い芝、ダート、ヨーロッパの重い芝と、さまざまな馬場に適応する一流馬を送り出しています。

Air Force Blue は、母が「Maria's Mon×Seeking the Gold」ですからアメリカ血統。身のこなしに重厚さよりも俊敏さが表れているのはその影響でしょう。母は Wavering Monarch≒Seeking the Gold 2×2で、自身は Rubiano≒Circle of Gold 3×2。配合の展開も綺麗です。Rubiano の母の父 Nijinsky と Circle of Gold の母の父 Storm Bird は相似な血です。





Air Force Blue の半兄シェーンメーア(父 Arch)は日本で走り、13戦1勝という成績です。今年2歳の半弟(父 Lemon Drop Kid)は、昨年9月に行われた米キーンランドの1歳セールで社台ファームが落札しました。Air Force Blue が4戦目のナショナルSを勝った翌日のことです。このセールには吉田照哉さんが01年以来久々に現地に赴いたとのこと。もちろんご自身で実馬をご覧になって購買されたのでしょう。日本でデビューするはずです。



2代母 Circle of Gold は米2歳牝馬チャンピオン Flanders の全妹で、Flanders の子には米3歳牝馬チャンピオン Surfside、本邦輸入種牡馬バトルプランがいます。質の高い牝系に属しています。

Air Force Blue は現在、英2000ギニー、愛2000ギニーのアンティポストで断然の1番人気。仕上がりに問題がなければ順当に勝ちそうな雰囲気です。




2015年英2000ギニーのアンティポスト上位人気馬(後)


10月25日に記した「2015年英2000ギニーのアンティポスト上位人気馬(前)」の続きです。

11倍で並んだ3番人気の3頭のうち、John F Kennedy については9月14日のエントリー「John F Kennedy が英ダービー前売り1番人気に」ですでに取り上げています。残る2頭、Faydhan と Highland Reel について触れたいと思います。当ブログで取り上げた過去の馬を調べる際には、左下の検索欄に馬名を入れ、Search ボタンを押すと、その馬名が含まれるエントリーが出てきます。ぜひご利用くださいませ。

■Faydhan

ハムダン殿下とジョン・ゴスデン調教師のコンビですから Taghrooda と同じです。7月3日にヘイドックパークの6ハロン戦でデビューし、後続に6馬身差をつけて圧勝しました。その後、レースに出走する予定もあったのですが、脚の負傷で使われることなく1戦1勝でシーズンを終えました。初戦で2着に負かした Dutch Connection はその後エイコムS(英G3)を勝ち、愛ナショナルS(英G1)で3着と健闘。これが評価を高めています。
http://www.pedigreequery.com/faydhan



「War Front×Speightstown」という組み合わせで Mr.Prospector 5×4。いかにも仕上がりが早そうなスピードタイプです。アメリカ産馬でありながらしっかり Danzig と Sadler's Wells を併せ持つところはヨーロッパ仕様なのかもしれません。母 Agreeable Miss の半姉にマチカネタマカズラ(クイーンC−3着)がいます。

父 War Front は昨年の米種牡馬ランキング5位。現役時代はダート6ハロンのG2を勝っただけですが、種牡馬として大成功し、いまやデインヒル、Green Desert とは別の新たな Danzig 系ラインを作るのではと期待されています。現在、米ケンタッキー州のクレイボーンファームに繋養され、14年の種付け料は15万ドル。これは Tapit と並んで全米トップです。

ヨーロッパでは Declaration of WarWar Command が、アメリカでは The FactorSummer SoireeData LinkPeace and War が、香港でも Sweet Orange がG1を勝っています。芝・ダート兼用のスピードタイプです。

■Highland Reel

前編でご紹介した Ol' Man River、Gleneagles はいずれもクールモア&オブライエンのチームでした。本馬もそうです。ちなみに、John F Kennedy もそうなので、上位人気5頭中4頭はこのチームの馬です。来年もいろいろなレースに使い分けてヨーロッパの大レースを席巻するのでしょう。

6月のデビュー戦は2着に敗れたものの、2戦目を12馬身差で圧勝し、3戦目のヴィンテージS(英G2・芝7f)も2・1/4馬身差で快勝しました。現在3戦2勝です。
http://www.pedigreequery.com/highland+reel8



「Galileo×デインヒル」の組み合わせは Frankel と Noble Mission の兄弟をはじめ多くのG1馬を誕生させているニックスです。この馬が新しいのは母 Hveger がオーストラリア産馬であること。デインヒルがオーストラリアで種付けをした際の産駒です。1915年にイギリスからニュージーランドに渡った Eulogy にさかのぼるファミリーで、2代母 Circles of Gold の部分が4分の1異系となっています。

2代母の父 Marscay は豪リーディングサイアー2回の名種牡馬。Star Kingdom 系らしいスピードを伝え、TriscayBint Marscay を筆頭に67頭のステークスウィナーを出しました。

Highland Reel の母 Hveger はSAJCオーストラレイジャンオークス(豪G1・芝2031m)3着、SAJCサウスオーストラリアンオークス(豪G2・芝2500m)2着と距離がもつタイプで、Highland Reel の半姉 Valdemoro(父 Encosta de Lago)もVRCクラウンオークス(豪G1・芝2500m)2着、STCヴァイナリースタッドS(豪G1・芝2000m)2着などの成績があります。Marscay のスピードが入ってもスピードタイプに変質した、ということはないようです。したがって Highland Reel も距離がもつタイプではないかと思います。英ダービーのアンティポストは現在3番人気でオッズは13倍です。




2015年英2000ギニーのアンティポスト上位人気馬(前)


デューハーストSを勝った Belardo は、ウィリアムヒルが現時点で発表している英2000ギニーのアンティポスト(長期前売り)で単勝6番人気タイ(13倍)。ということはその上にさらに有力と目される馬が5頭いるということです。軽く触れてみたいと思います。1番人気が9倍なので混戦模様です。

9倍 Ol' Man River、Gleneagles
11倍 Faydhan、John F Kennedy、Highland Reel

■Ol' Man Rive

1番人気に推された Ol' Man River と Gleneagles は、いずれもクールモア&オブライエンのチームが送り出す良血馬です。Ol' Man River は9月28日に行われたベレスフォードS(英G2・芝8f)を勝って戦績を2戦2勝としました。
http://www.pedigreequery.com/ol+man+river2



母 Finsceal Beo はマルセルブサック賞(仏G1)を勝って06年のカルティエ賞最優秀2歳牝馬に選ばれ、翌07年は英1000ギニー(G1)と愛1000ギニー(G1)を制覇。仏1000ギニー(G1)はアタマ差2着で、ヨーロッパ主要1000ギニー完全制覇という大記録をあと一歩のところで逃しています。

Ol' Man River は Finsceal Beo の3番子。父 Montjeu はダービー型の種牡馬でギニーでは実績が乏しいタイプですが、Finsceal Beo は「Mr.Greeley×ロイヤルアカデミー」という血統からも推察できるようにスピード抜群。英1000ギニーとマルセルブサック賞を勝った際はレコードタイムを出しました。マイル戦にも対応できそうです。英ダービーのアンティポストは John F Kennedy に次ぐ2番人気となっています。

10月26日(日)の京都5R新馬戦に、同名のオールマンリバー(父キングカメハメハ)という馬が出走します。Ol' Man River と同じく母方にロイヤルアカデミーを持っています。こちらも良血なので注目したいところです。

■Gleneagles

前述のとおりこちらもクールモア&オブライエンの良血馬です。愛ナショナルS(G1)、愛フューチュリティS(G2)、タイロスS(愛G3)を制したほか、フランスに遠征して臨んだジャンリュックラガルデール賞(G1)では1位入線したものの、進路妨害により3着降着となっています。下の画像はそのときのものです。



全姉 Marvellous は今年の愛1000ギニー(G1)の勝ち馬。母 You'resothrilling は名種牡馬 Giant's Causeway の全妹にあたる良血馬で、現役時代はチェリーヒントンS(英G2・芝6f)など2つのスプリント重賞を勝ちました。2代母 Mariah's Storm はアメリカで6つの重賞を制した活躍馬です。
http://www.pedigreequery.com/gleneagles9



母 You'resothrilling は前述のとおりの良血馬で、なおかつ2頭産んだ子がいずれもG1ホースですから、繁殖牝馬としてケタ違いの存在なのかもしれません。Slightly DangerousHasiliMagnificient Style など、傑出した繁殖牝馬は Roberto を抱えているケースが多いような気がします。

英ダービーは4番人気の単勝15倍。多少距離が長い、という見方があるのでしょう。




ディープ・トニービン1×3


ここにきて存在感が大きくなってきたハーツクライ。「サンデーサイレンス×トニービン」という組み合わせは、父も、母の父も柔らかな芝血統なので、交配相手の牝馬に硬めのアメリカ血統を入れるとバランス的にちょうどよい、という話は何度かしたと思います。代表産駒ジャスタウェイの母の父はダート向きの Wild Again です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2009106461/



ハーツクライ以外で「サンデーサイレンス×トニービン」の組み合わせから誕生した活躍馬は、アドマイヤベガ(日本ダービー)、アドマイヤグルーヴ(エリザベス女王杯2回)、リンカーン(阪神大賞典、京都大賞典、日経賞)など。勝ち鞍を見ても分かるとおり中長距離を得意とする馬が目立ちます。東京や京都外回りではとくに好成績を残しました。トニービン自身、現役時代は凱旋門賞を勝ったスタミナタイプで、産駒が勝った13個のG1のうち11個が東京競馬場でのものでした。長くいい脚を使える子が多かったですね。

「ディープインパクト×トニービン」も似たような傾向があり、直線の長いコースや外回りに向き、新馬戦や2歳戦で抜群の実績を残しています。ただ、かなりの数が競走年齢に達していながら、重賞を勝った馬はグルヴェイグ(マーメイドS)とサトノノブレス(日経新春杯)の2頭のみ。ハイレベルな産駒は肝心なところでワンパンチ足りないというか、勝負弱いところがあります。ちなみに、グルヴェイグはアドマイヤグルーヴの4分の3妹、サトノノブレスはアドマイヤベガと配合構成がよく似ています。したがって、上記の「サンデーサイレンス×トニービン」と成功パターンが一致しています。




個人的な話で恐縮ですが、POG関連の仕事は現在佳境に入っており、ディープインパクト産駒の2歳世代の好配合馬選定はすでに終了しました。今年選んでいて感じたのは「トニービンが2代母の位置にくる配合には安定味がある」ということです。考えてみれば3歳牝馬のトップを走るハープスターは「ディープインパクト×ファルブラヴ×トニービン」です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2011104000/



「ディープインパクト×トニービン」のもどかしさやパンチの弱さを、トニービンを1代後ろに下げて母の父に硬めの血を入れることで解決した、といえるのではないでしょうか。

ハープスターの同期で残念ながら競走馬になれなかったポルトフィーノの2011は、牧場時代の評価がきわめて高く、サンデーサラブレッドクラブで1億2000万円の高額で募集されました。同馬は「ディープインパクト×クロフネ×トニービン」です。今年の2歳世代には、ポルトフィーノの2011の全弟ポルトドートウィユをはじめ、このパターンの配合馬が4頭います。すべて素晴らしい……というわけではありませんが、配合的な収まりがよく、いずれも走りそうな雰囲気を漂わせています。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2012104833/



ハープスターの母の父ファルブラヴ、ポルトドートウィユの母の父クロフネはいずれもパワー型の血で、これは要するに、ハーツクライ産駒の母方に硬めのアメリカ血統を入れる、という成功パターンと同じことではないかと思います。

1代目と3代目に特定の種牡馬が入る配合の表記がわからないので、とりあえず「ディープ・トニービン1×3」としました。今年の2歳世代はこの配合に注目してみたいと思います。ちなみに、先週終了時点でこの配合馬は出走8頭中7頭が勝ち上がり、芝連対率は42.9%(42戦18連対)と優秀です。




ファシグティプトンノベンバーセールの社台グループ落札馬


11月4日、米ケンタッキー州で毎年恒例のファシグティプトンノベンバーセールが開催されました。ここで落札された高額の繁殖牝馬が日本にやってきて、数年後、それらの産駒がターフを賑わせることになります。すでに3週間ほど経ってしまったのですが、社台グループが購買したものだけ簡単にフォローしておきます。

■社台ファーム

◎Champagne d'Oro(父 Medaglia d'Oro)
価格:270万ドル
主な勝ち鞍:エイコーンS(米G1)、テストS(米G1)
短評:スタミナを活かした粘り強い先行馬。半弟 Ruler on Ice がベルモントS(米G1)の勝ち馬であることが評価を高めている。
http://www.pedigreequery.com/champagne+doro



◎In Lingerie(父エンパイアメーカー)
価格:240万ドル
主な勝ち鞍:スピンスターS(米G1)
短評:ピリッとした末脚を使えるタイプ。「エンパイアメーカー×Storm Cat」は Bodemeister(アーカンソーダービー)と同じ。
http://www.pedigreequery.com/in+lingerie



◎Cambina(父 Hawk Wing)
価格:75万ドル
主な勝ち鞍:アメリカンオークス(米G1)
短評:アイルランドでデビューしたあと3歳時にアメリカへ移籍。末脚を武器に芝路線で活躍した。父は Woodman 系の芝血統。
http://www.pedigreequery.com/cambina



◎Kathmanblu(父 Bluegrass Cat)
価格:60万ドル
主な勝ち鞍:ゴールデンロッドS(米G2)
短評:BCジュヴェナイルフィリーズターフ3着の成績が示すとおりダートだけでなく芝でも走った。母の半弟に米G1勝ち馬がいる。
http://www.pedigreequery.com/kathmanblu



■ノーザンファーム

◎Mi Sueno(父 Pulpit)
価格:190万ドル
主な勝ち鞍:デビュタントS(米G1)
短評:デビュタントSは中団追走から直線で末脚を伸ばして差し切った。トビが大きいので器用さはないが力強いタイプ。
http://www.pedigreequery.com/mi+sueno4



◎Awesome Feather(父 Awesome of Course)
価格:190万ドル
主な勝ち鞍:ブリーダーズCジュヴェナイルフィリーズ(米G1)
短評:デビューから10連勝し、引退レースのBCレディーズクラシック(6着)で初めて敗れた。2代母が底力十分で芝適性も秘めている。
http://www.pedigreequery.com/awesome+feather



◎Palace Rumor(父 Royal Anthem)
価格:110万ドル
主な勝ち鞍:ベルモントS優勝馬 Palace Malice の母
短評:父 Royal Anthem は英チャンピオンSなど世界3ヵ国でG1を制覇。母の父 Red Ransom も芝適性がある。芝向きの子も出せるはず。
http://www.pedigreequery.com/palace+rumor2



◎Willa B Awesome(父 Awesome Gambler)
価格:87万5000ドル
主な勝ち鞍:サンタアニタオークス(米G1)
短評:ダートとオールウェザーで勝ち星がある。良血タイプではないが、それだけにどんな種牡馬も付けられる強みがある。
http://www.pedigreequery.com/willa+b+awesome





カリムの影響を受けたハイセイコー


会社で働いていたころ、ダービー前夜は高揚感に煽られて、毎年終電がなくなるまで飲んだものです。家に帰っておとなしく寝る気分にはなりません。ダービーで儲けるからいいやと遠い道のりを豪勢にタクシーで帰ったり、朝方まで飲んだ場合はそのまま競馬場、というパターンでした。

長時間飲んでも細かい予想の話はしません。ダービーの場合、何を買うかはとっくに決まっているからです。配合を通してひとつの世代を眺めてきて、蒸留酒の最初の一滴にように、◎を打つ馬が自然に決まるのが理想です。これがスムーズに行く年はだいたい好結果となります。直前まで迷ったり、考えがまとまらない年はたいてい当たりません。

今年はすんなり決まりました。しっかりと儲けて飲み会の資金にしたいと思います。

最近はレース前夜に飲み歩くこともなくなり、ダービー関連番組を横目に眺めながら自宅で仕事を片付けています。土曜日の夜にNHK総合で放送されたハイセイコーのドキュメンタリーはなかなか良かったですね。ハイセイコーのダービーは1973年。いまから40年前です。第40回日本ダービーですから、第80回を迎えた2013年から振り返ると、日本ダービーの歴史のちょうど半分です。

ダービーで3着に負けた理由は、もちろん連戦からくる疲労もあったでしょうが、血統的にスタミナ十分というタイプではなく、2ハロンの距離延長がこたえた部分が大きかったと思います。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/000a000b7f/



母の父カリムは Nasrullah と血統構成がよく似たスピードタイプ。桜花賞を勝ってオークスで14着と惨敗したタマミや、大井の東京盃(ダ1200m)をレコード勝ちした“アラブの魔女”イナリトウザイなどの父です。カリムのスピードが距離適性に影響を及ぼしている、という説は現役当時から語られていました。



ハイセイコーと同じチャイナロック産駒で、同じくオーストラリア牝系を持つタケシバオーは、母の父にヤシママンナという図太い血を持つため距離延長を苦にせず、春の天皇賞を勝ちました。両者の距離適性の違いは、乱暴にいえばカリムとヤシママンナの差です。

ハイセイコーは2000mまでは強かったのですが、それを超える距離では[1・2・2・3]という成績。8戦して1回しか勝てませんでした。マイル路線、あるいはダート路線が整備された時代なら、とんでもない戦績を残していたはずです。




第4回日本ダービー馬ガヴァナー


1935年(昭和10年)に行われた第4回日本ダービーを制したガヴァナーは、3戦全勝の競走成績、同じくダービーを勝ったカブトヤマの全弟という良血でありながら、語られることの少ない馬です。というのも、この馬の功績を語るべき関係者が早くに亡くなり、ガヴァナー自身もダービーを勝ったわずか1ヵ月後に死んでいるからです。

以前、『競馬歴史新聞』(日本文芸社)という本の編集に携わったとき、1935年のトップニュースはガヴァナーの死亡記事にしました。記事を書くにあたっての資料集めの際に、参考となる記事をほとんど見つけ出せず難儀したのを覚えています。同じくダービー後に死んだトキノミノルに関しては山ほどあるのですが……。

先に記したとおり、ガヴァナーは3戦全勝でダービー馬となりました。着差は順に4、4、6馬身。岩手県の小岩井農場の生まれで、全兄にカブトヤマ(日本ダービー)、全弟にロッキーモアー(帝室御賞典)、ファインモア(中山記念)などがいる良血馬です。
http://ahonoora.com/gavanar.html



母アストラルは、当時小岩井農場で働いていた伝説の馬産家・高橋勝四郎(のちに千明牧場で二冠馬メイズイをはじめ多くの名馬を作る)が見出した馬で、牧場に連れてくるなり場長の戸田務から馬体の貧弱さをなじられたというエピソードがあります。しかし、高橋は自信たっぷりに、この馬から走る馬を作って見せますよ、と答えたそうです。その予言どおり、アストラルは歴史的な名繁殖牝馬となりました。ただ、同馬が初子を産んだ1930年(昭和5年)に高橋は戸田との軋轢が原因で小岩井を辞めていたので、彼の手柄にはなっていません。

アストラルの配合は「チャペルブラムプトン×ダイヤモンドウエッディング」という組み合わせ。Sainfoin≒Wedlock 3×3が配合的なキーポイントです。山妙(ダービー馬イエリュウの母)、萬楽(テスコガビーの4代母)、英楽(シーマーの2代母)などはこの組み合わせから誕生しています。また、ガヴァナーの全妹である第参アストラルは、オーマツカゼを通じて大牝系を築いています。



ガヴァナーの全兄弟はすべてシアンモアとの交配から誕生しているのですが、この組み合わせは Sierra=Sainfoin≒Wedlock 5×4・4と、上記のクロスを継続しています。戦前の名配合のひとつといえるでしょう。

たとえば、萬楽からテスコガビーに至る道筋を、Sainfoin≒Wedlock と Sierra=Sainfoin を軸に1代ずつ検証してみると、いろいろ見えてくるものがあります。これは説明を始めると長くなるので割愛します。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/000a010225/



ガヴァナーはダービーを勝ったあと、東京競馬場での調教中に故障を発症し、残念ながら薬殺処分となりました。それから数日後、厩務員の茅島高平も担当馬に蹴られて死亡しています。

ガヴァナーに騎乗した井川為男騎手(1914年生)は、大正生まれとしては初のダービージョッキーで、このとき20歳6ヵ月。のちにクリフジに騎乗して優勝した前田長吉騎手の20歳3ヵ月に次ぐ歴代2番目の若年ダービー制覇です。今年のダービーをロゴタイプのクリスチャン・デムーロ騎手(20歳10ヵ月)が制したとしても、歴代では3番目です。井川騎手は関西の美馬勝一門下生。豪快な騎乗ぶりが持ち味だったそうです。翌年の第5回ダービーではピアスアロートマスに騎乗しアタマ差の2着。あと一歩のところでダービー連覇を逃しました。彼にとってこれがダービー最後の騎乗となりました。正確な年は分かりませんが若くして病没したとのことです。6歳下の弟・勇蔵も騎手となりましたがビッグレースには勝っていません。

ガヴァナーの全兄で同じくダービーを制覇したカブトヤマは、種牡馬としてダービー馬マツミドリを出し、まだ存命中だった1947年から、この馬の名を冠した父内国産馬限定のカブトヤマ記念という重賞競走が作られました(2003年を最後に廃止)。ガヴァナーも生きていればきっといい種牡馬になっていたはずです。




アメリカ注目の新種牡馬 War Pass と Into Mischief


今年の米クラシック戦線は新種牡馬の健闘が目立ちます。ケンタッキーダービーに出走できそうな馬のうち6頭程度が新種牡馬の子です。

複数の手駒を揃えている種牡馬は、War Pass と Into Mischief の2頭。活躍馬が1頭だけならラッキーパンチの可能性もありますが、2頭となると信頼性が高まります。

■War Pass(2005年生・父 Cherokee Run)
・Java's War(ブルーグラスS−G1)
・Revolutionary(ルイジアナダービー−G2、ウィザーズS−G3)

■Into Mischief(2005年生・父 Harlan's Holiday)
・Goldencents(サンタアニタダービー−G1、シャムS−G3)
・Vyjack(ジェロームS−G2、ゴーサムS−G3)

もし初年度産駒がケンタッキーダービーを勝てば、09年の Mine That Bird(父 Birdstone)以来4年ぶりのことです。

War Pass は現役時代にブリーダーズCジュヴェナイル(G1)を勝ち、米2歳牡馬セン馬チャンピオンに輝きました。しかし、ケンタッキーダービーの直前に骨折し、そのまま引退しています。なぜかアメリカではケンタッキーダービーの直前に故障して引退した馬は種牡馬として成功する傾向があります。Turn-to、Hail to Reason、Sir Gaylord、Graustark、Hoist the Flag などがそうです。初年度産駒からケンタッキーダービーの有力馬を2頭送り出した War Pass もこのカテゴリーに入るでしょう。

父 Cherokee Run はダート重賞を3連勝中のホッコータルマエの母の父でもあります。Mr.Prospector と相性がよく、2代母の父に Ribot 系の Hoist the Flag が入るので底力も十分。Bayou にさかのぼる名牝系の出身でもあります。残念ながら10年に死んだため、残された産駒はわずか2世代。質の高い種牡馬だったので惜しまれます。
http://www.pedigreequery.com/war+pass



一方、Into Mischief は現役時代に6戦3勝(2着3回)。すべてオールウェザーで走り、2歳時にキャッシュコールフューチュリティ(G1)を勝っています。これも War Pass と同じく故障でクラシックを棒に振りました。3歳秋に復帰してマリブS(G1)では2着でしたが、相手が Bob Black Jack では仕方ありません。半妹の Beholder は昨年のブリーダーズCジュヴェナイルフィリーズ(G1)の勝ち馬で、今年に入ってからもG1を連勝するなど、米3歳牝馬戦線ではトップを争う大物です。母の父 Tricky Creek は「Clever Trick×His Majesty」。これは昨年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬 Dawn Approach の母(Clever Trick 系×His Majesty 系)と似ています。
http://www.pedigreequery.com/into+mischief



これらの産駒4頭(Java's War、Revolutionary、Goldencents、Vyjack)のうち、ケンタッキーダービーで一発がありそうなのは Revolutionary ではないかと考えています。ケンタッキーダービーはスタミナ勝負になるので重厚な血がモノをいいます。Revolutionary は Hoist the Flag 4×3で、米年度代表馬 Mineshaft とよく似た血統構成。ハイペースで展開するダート2000mでいかにも強そうなタイプです。差し脚質なのもいいですね。前述のとおり War Pass 産駒は2世代しかいないので、早く後継種牡馬が現れてほしいものです。







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