パーフェクト種牡馬辞典


ハーツクライとステイゴールドが種牡馬ランキング3位で並ぶ


2012年以降、わが国の総合種牡馬ランキングの1、2位は、ディープインパクト→キングカメハメハの順で変わっていません。そして、15年以降、3、4、5位はハーツクライ、ダイワメジャー、ステイゴールドが占め、毎年順位を入れ替えています。

キングカメハメハは数年前から種付け頭数を制限した影響で、2位をキープしているとはいえ収得賞金が徐々に下がっており、今年はハーツクライとステイゴールドから激しいプレッシャーを受けています。この3頭が熾烈な2位争いを繰り広げるなかで、8月12日の競馬が終了しました。順位と収得賞金(万円)は以下のとおり(集計はJBIS)。

1位 ディープインパクト  411838.9
2位 キングカメハメハ   228013.2
3位 ハーツクライ     223399.9
3位 ステイゴールド    223399.9
5位 ダイワメジャー    168005.7

ハーツクライとステイゴールドが22億3399万9000円でぴったり並び、第3位を分け合っています。これほど上の順位でまったく同じ収得賞金というのは見たことがないですね。相当な珍現象だと思います。

ここ数年、上位層が固定化していますが、ロードカナロア、オルフェーヴル、ルーラーシップ、ジャスタウェイといった才能豊かな若い種牡馬が伸びてきているので、世代交代もじきに始まりそうです。




石川ワタルさん死去


闘病されていると知ったのは、今年のダービーが終わった直後、カメラマンや関係者でごった返すターフの上です。久しぶりに顔を合わせた宇田川淳さんが「石川さんの体調、あまり良くないみたいなんだよね……」とつぶやきました。なんと末期癌とのこと。あまりに突然のことだったので目の前の風景がグニャッと歪んだような気がしました。

それから2ヵ月半、レーシングプログラムや雑誌などで幾度か文章を目にする機会がありました。以前と変わらぬ調子のそれらを読むと、ひょっとしたら病気はガセネタではないか、と思ったりもしました。仮に癌が本当だとしても、かなり持ち直してきているのではないか……。

それは空しい願望でした。亡くなったと知らされたいま、脳裏に甦るのは石川さんの人懐こい笑顔です。大らかで陽気で優しく、冗談とダジャレと女性が好きで、いつも人の輪の中心にいらっしゃる方でした。初めてお会いしたとき、わたしは20代前半のペイペイでしたが、偉ぶることなく接していただいて感激したのを思い出します。それから幾度となく仕事やプライベートでご一緒させていただきましたが、石川さんのキャラクターはまったく変わることはありませんでした。

お仕事の大きな柱は『優駿』で担当されていた海外競馬ニュースですが、それを読んで日本以外の競馬に目覚めた方は少なくないと思います。わたしもそのひとりです。ともすれば専門的で難解な方向に傾きがちな海外競馬というジャンルを、初心者にもわかりやすく平明な文章で伝えた功績はきわめて大きかったと思います。それはまさに石川さんの飾らないお人柄の成せる業でした。

世界のなかの日本競馬、という問題意識をつねに抱え、日本競馬の改善すべき点といった方向に話題が及ぶと、真剣なまなざしで話が尽きませんでした。もちろん、外国かぶれといった浅薄なものではありません。三十数年前、イギリスの競馬評論家トニー・モリスが日本を「種牡馬の墓場」と評したときには、本人宛てに反論の手紙を書いたそうです。日本の競馬に愛と誇りを持ち、日本の馬が海外で活躍することを誰よりも望んでらっしゃいました。

年に数回、海外の大レースを取材されていたので、ブリーダーズCや凱旋門賞に出向いた際にはしばしば顔を合わせました。数年前の凱旋門賞ではロンシャン競馬場の正門近くで石川さんご夫妻と遭遇。石川さんは英国紳士風の盛装で、そんな姿は一度も見たことがなかったので「すごいコスプレですね。レンタルですか?」と言ったところ、「栗山くんね、ボクだってこれぐらいの服は持ってますよ」と朗らかに笑われました。永遠の青年といった心の若さがあり、20歳以上も年が離れているのに、まったくそんな気がしませんでした。

2013年の晩秋に『石川ワタル、世界をワタル』(東邦出版)を上梓されました。個人的に大好きな本です。そのいちばん最後に収められた「走馬灯」という作品はこんな書き出しです。

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 人は死ぬとき、瞬時のうちに一生を振り返るという。過去の出来事が、わずか1秒か2秒か3秒か、超早送りのフィルムとなって脳裏に再生される。もう2度と見ることのない自分の人生。
 人はその思い出のアルバムを見ながら、死んでいく……。
 僕はそのとき、どんな光景を見るだろう?
 ――こんなことを考えるなんて、きょうの僕はどうかしているのか?
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このあと、石川さんがこれまでに世界の競馬場で体験したさまざまなシーンが、まるで夢を反芻するかのように美しく幻想的に描かれていきます。これを読んだとき、石川さんにしか書けない傑作だと思う一方で、遺言のようだとも感じました。そして、この本が石川さんの最後の著作のように思えてきたので、そのあと電話でしゃべる機会があったときに「続編を期待しています」と伝えのを覚えています。「まずはこの本が売れないとね〜」と笑ってらっしゃいました。

1970年代の半ば、単身イギリスへ渡って数年間生活をされたお話は、いろいろな媒体でお書きになっただけでなく、酒場でも幾度かおもしろおかしく話していただきました。そこで、ある雑誌の編集者をしていた十数年前、石川さんにそのあたりのことをしっかり書いていただきたいと思い、連載を依頼しました。出だしは快調、もし完結したら単行本になりそうな予感がありました。しかし、数回掲載したところで雑誌が廃刊となり、その連載も中断。これだけは申し訳ない気持ちでいっぱいです。

しかし、石川さんは笑顔で「気にしないでいいよ」と声を掛けてくださり、その後も変わらぬお付き合いをしていただきました。競馬に限らず、人としてのあり方をその背中で教えてくださった偉大な先輩でした。合掌。




ニッポーテイオー死す


80年代の競馬は、ミスターシービーとシンボリルドルフが立て続けに三冠馬となった83〜84年と、タマモクロス、イナリワン、オグリキャップなどが競馬ブームを盛り上げた88〜89年に、大きなふたつのピークがあったと思います。

その中間の時代は語られることが少ないのですが、決して谷間の時代だったわけではありません。個人的なことをいえば、まだ大学生だった89年に競馬業界の門を叩いたのですが、85〜87年あたりの競馬がつまらないものだったら、これほど競馬にハマることはありませんでしたし、さっさと違う業種に就職していたでしょう。

ニッポーテイオーは中間の時代を盛り上げた主役の1頭です。競走馬として完成した4歳秋に天皇賞・秋(G1)とマイルチャンピオンシップ(G1)をいずれも5馬身差で圧勝。翌年春にはダイナアクトレスを寄せ付けず安田記念(G1)を勝ちました。先頭または2番手につけて押し切る弾丸のようなレーススタイルは、“豪腕”の異名を取った郷原洋行騎手の手綱さばきとマッチしていました。

母は名繁殖牝馬チヨダマサコ。1歳下の半妹タレンティドガールは、マックスビューティの牝馬三冠を阻止してエリザベス女王杯(G1)を勝ちました(当時の牝馬三冠の最終関門は秋華賞ではなくエリザベス女王杯)。ホエールキャプチャの3代母、といったほうが分かりやすいかもしれません。

ニッポーテイオーとタレンティドガールを産んだチヨダマサコは、オークス馬オーハヤブサの牝系から誕生し、My Babu 4×4、Nasrullah 4×5というクロスを持っています。My Babu の母 Perfume は Nasrullah と相似な血なので、Perfume≒Nasrullah 5・4×5・5となります。このスピード配合がコンスタントに良駒を生み出した鍵ではないでしょうか。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1977100595/





当時のリーディングサイアーは Northern Dancer 系のノーザンテーストで、ニッポーテイオーの父リィフォーは、86、87年と種牡馬ランキングで2位でした。牝馬三冠馬メジロラモーヌ、日本ダービー馬シリウスシンボリを出したモガミと同じく Lyphard の息子で、Northern Dancer 系に属します。母 Klaizia はグロシェーヌ賞(仏1000m)の勝ち馬で、母の父 Sing Sing はスプリント種牡馬。その影響でスピードを武器としていました。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1983102584/



スタミナタイプのリマンドを父に持つ半妹タレンティドガールは2400mをこなしました。しかし、リィフォーはマイラー種牡馬だったので、ニッポーテイオーには距離の壁がありました。87、88年と2年連続で宝塚記念(G1・芝2200m)に出走したものの、いずれも2着に敗れています。2年目は、天皇賞・春(G1)を含めて中長距離で無敵を誇るタマモクロスが参戦。マイル王者と長距離王者のドリームマッチとなりましたが、やはり2200mは1ハロン長く、ニッポーテイオーは必死に粘ったものの2着に敗れました。
https://youtu.be/IVofTPqkUXE

天皇賞・秋やマイルチャンピオンシップの圧勝劇は鮮烈でしたが、宝塚記念で距離の壁に挑んで散った姿も、血統による適性が厳然として存在することを教えてくれた思い出深いシーンです。

8月16日、北海道浦河町のうらかわ優駿ビレッジAERUにて33年の生涯を閉じました。80年代を彩る名馬のなかで最後の生き残りだったのではないでしょうか。




清水成駿さん死去


2016年8月4日、病気のため都内の病院で死去しました。68歳。わたしが競馬を始めた三十年ちょっと前、すでに業界有数のスター予想家で、『1馬』(現在の『優馬』)の看板予想家として数々のヒット予想を飛ばしていました。

1983年秋に上梓した『マジで競馬と戦う本』(KKベストセラーズ)は、約30万部売れたという話を聞いたことがあります。古今を通じて最も売れた競馬本である――と。その真偽は分かりませんが、信じるに足るものではないかと思います。競馬を始めたころ、馬券本を山のように買って読んだのですが、そのほとんどは散逸してしまい手元に残っていません。しかし、『マジで競馬と戦う本』は、いまだに本棚にあります。おろそかにできない何かがあったのだと思います。

凡百の馬券本と違うのは、読み物として楽しいということです。ひとつの事象を説明するとき、数字や理屈に頼るのではなく、レトリックを凝らし、わかりやすいたとえ話を用意し、だれもが「ああなるほど」と納得できるようになっています。当時、未熟な高校生だった自分にもスッと入ってきました。著者の旺盛なサービス精神の賜物です。そして、ときどきこんな格調高い文章がサラッと入ります。

「“勝たんとて打つべからず、負けじと打つべきなり”は徒然草の言葉だが、“勝たんとて打つべきなり、負けじと打つべきなり”が私の競馬だ。
 サラブレッドも、馬券も、勝つという目的においてのみ存在するものだからだ」

いま読み返しても、見事というしかない本です。爆発的に売れたのもよく分かります。

2000年9月、宝島社の『激走』という雑誌で清水成駿さんの人物評伝を書くため、取材を申し込んだところ、快く引き受けてくださいました。清水さんの行きつけの居酒屋でテーブルを挟んで向き合い、2時間ほどのインタビューをさせていただきました。少し離れたところにあるお店のテレビに、シドニーオリンピックの女子ソフトボール決勝の模様が映し出されていたのを思い出します。

「怖い人だよ」と、取材前に脅かす人がいたので、はじめは緊張していたのですが、いざ話し始めるとそんなことはなく、穏やかな表情で杯を傾けながら、低いトーンの、ゆっくりとした口調で、これまでの人生について淡々と語ってくださいました。

「記者になって何年目かな、ハードバージとラッキールーラで決まった昭和52(1977)年の皐月賞(77.3倍)を本命対抗で当てたときはいちばん嬉しかったね。2−2を3万円取ったのかな。だから払い戻しは200万以上。鶯谷のキャバレーでお金投げてたよ、ポケットに入りきらなくて(笑)。給料が5、6万ぐらいのころだから大きかったねえ」

といった武勇伝を聞くと、こちらもテンションが上がってきます。実家が本郷、学校が目黒にあったので、高校時代から通学途中に大井競馬場行きのバスに乗り込み、馬券を買って遊んでいたそうです。1968年、まだ大学を卒業する1年半も前に、アルバイトで入った『1馬』で予想家デビュー。1973年、25歳の若さで馬柱のいちばん上のポジションでシルシを打つようになったそうです。

「上の人がいなくなっちゃったから。馬券で失踪したりする人が続出して僕が付けるしかなかったの(笑)。ハイセイコーぐらいのときかな。いい加減なもんだよ」

清水成駿さんにとって「競馬は経済」という認識が原点で、初期の著作はこの哲学によって貫かれています。個人馬主と共有馬主、馬主経済、番組を読む、賞金から推理する、といった視点は、ここから生まれました。持ちタイム、コース適性、レース展開、血統といった従来の予想ファクターとはまったく違う革命的なものでした。

血統については、調教師試験に血統という科目を作れ、という主張が印象的でした。

「よく調教師にさ、調教師試験で一応労働法とか、いろいろな問題が出るわけだけど、血統の勉強をさせるっていうのは大事だと思うけどね。アフリートの子を長距離に使ったりとか、めちゃくちゃやってるからね。タマモクロスがいちばんいい例じゃない。あんな芝馬を最初はダートばかり走らせてたんだから。『この馬はどのレースに向くか』とか、まずそういう試験があるべきだと思うね。いま調教師試験にいちばん欠けてるものだと思う。直接の、馬主を管理するファンドマネージャーとして、血統を知らないということはいちばん決め手に響くものだからさ。この馬が何に向いているかっていうのを、馬を見て判断するのも調教師の仕事かもしれないけど、どういう馬にしようという大局観は血統を知らないとね。こういうものを試験に出さないといけないと思うよ」

そのほか、ここでは紹介しきれないほどのおもしろいお話をしていただきました。コラムによく登場する“保険屋の藤田”は大学時代の同級生で実在すること。笹沢佐保の『木枯らし紋次郎』が好きなこと。『1馬』の人気コラム「スーパーショット」は当日の朝5時ごろに書いていること。ヤクルトファンであること。それから、年の離れた後輩である佐藤直文さんと庄司真さんのことを褒めてらっしゃいました(庄司さんは昨年亡くなられました)。

「文才というのは会得するものじゃない。ある人はずっとあるし、ない人は何年書いてもない。文のテクニックっていうのはある。テクニックというのは書けば書くほど上達する。才能っていうのは文書いても話しても同じだから。話することを文にすればいいわけだから。それは才能なんだね。香具師の口上じゃないけど、人の心をギュッとつかんで、目を逸らさせずに自分の世界に持っていけるか。それは最初が肝心なんだよ。スーパーショットも同じ。最初の一行にかかってる」

二十数年前の「スーパーショット」にこんな一節がありました。

「かつて競馬にしろ競輪にしろギャンブル・ファンは、いつも怒っていた。頭に鉢巻きを巻いた親父だけではない、銀行員も学校の先生も鉢巻き親父以上に罵声をとどろかせていた。たまに決まりそうになれば、そのままと大声で叫び、外れればバカ野郎か八百長である。そんな怒りが重賞レースでは、地の底から沸き上がる大歓声となった。競馬場には喜怒哀楽が渦巻き、何にも替えがたい自由があった。だが今は紳士に淑女、それにジーパンの若者。罵声が横断幕に変わり、怒りは手拍子にかき消された」

清水成駿さんが愛した競馬は、ここに描かれた旧時代のものであり、それこそが彼を育んだものでした。そうした時代はもはや消え去ってしまった以上、彼のような個性が競馬界に現れることは二度とないでしょう。




セレクトセール2016:2日目


2日目は当歳馬。セリ開始は午前10時ですが、その前に行われる事前下見の風景は相変わらず壮観です。



画像は木陰のなかですが、向こう側の放牧地まで使った広大なスペースに、約240頭の当歳馬とその母馬が散らばっています。走る馬を見つけようとするバイヤーたちは、あらかじめ決めていたお目当ての馬を求めて、あちこちに移動しながら品定めしていました。外国人の姿も目に付きました。

1億円を超えたのは以下の9頭です。昨年よりも2頭増え、なおかつ昨年ゼロだった2億円超えが4頭出ました。

2億8000万円 ディープインパクト×イルーシヴウェーヴ(牡)
2億8000万円 ディープインパクト×マルペンサ(牡)
2億4000万円 ディープインパクト×マンデラ(牡)
2億3000万円 ディープインパクト×カンビーナ(牡)
1億8000万円 ディープインパクト×セリメーヌ(牡)
1億7000万円 オルフェーヴル×ホエールキャプチャ(牡)
1億5500万円 ディープインパクト×ファイナルスコア(牝)
1億4000万円 ジャスタウェイ×アドマイヤテレサ(牡)
1億円      オルフェーヴル×プリティカリーナ(牡)

トッププライスは2頭同額でイルーシヴウェーヴの2016とマルペンサの2016。価格は2億8000万円です。いずれも里見治さんが落札されました。記念撮影には池江泰寿調教師、池江泰郎元調教師が収まっていました。

★1位 2億8000万円
328番 ディープインパクト×イルーシヴウェーヴ(牡)





 母は仏1000ギニー(G1)など仏英で14戦6勝。「ディープインパクト×Elusive Quality」で Alzao≒Touch of Greatness 3×3を持つ配合は2歳牝馬チャンピオンのショウナンアデラと同じ。Mr.Prospector と Blushing Groom の組み合わせを持つディープインパクト産駒にはヴィルシーナ、ミッキークイーン、アンビシャスといった大物がいます。全姉が前日の1歳セッションでキャロットクラブに落札されたのですが、価格は5400万円でした。

★1位 2億8000万円
389番 ディープインパクト×マルペンサ(牡)





 母はアルゼンチン産で、今年の4月に腸捻転で死んだため産駒は4頭しかいません。長男のサトノダイヤモンドはきさらぎ賞(G3)を勝ち、ダービー2着、皐月賞3着という好成績を残しています。本馬はその全弟。里見オーナーによれば、6月に見たときは同時期のサトノダイヤモンドのほうが上だと思ったが、それから1ヵ月経って急激に良くなり、いまでは遜色ない、と。本馬は母が産んだ最後の子です。

セレクトセール2日間の総売上額は149億4210万円。過去最高記録となりました。セリの前にイギリスのEU離脱問題が起き、株価が急落したので、その影響を懸念する声もありましたが、まったく問題ありませんでした。頂点が高くなっているだけでなく、裾野の価格も押し上げられており、手頃な価格帯で良馬を見つけ出そうとするオーナーたちの悲鳴があちこちから聞こえてきました。

手ぶらで帰らざるをえなかったオーナーは、7月19日に開催されるセレクションセールに行くことになるかと思いますが、わたしも取材に行く予定です。




セレクトセール2016:初日


今年のセレクトセールは7月11、12日に行われました。昨年まではセリが終わった直後に振り返りを書いていたのですが、年々請け負う仕事が多くなってしまい、今年は物理的に難しい状況になってしまいました。気がつけば数日経ってしまったのですが、簡単に触れておこうと思います。

書き仕事に関しては、すでに公開されているものが2つあります。ひとつは、JRAーVANのセレクトセール特集サイト内にある「高額取引馬1歳」「高額取引馬当歳」。もうひとつは、netkeiba.com の競馬コラムのなかにある「GIドキュメント」(金曜日12時掲載)の「高額馬だけじゃない!プロが選ぶ“馬体よし価格よし”の原石たち(1)」。後者は須田鷹雄さんもまったく同じテーマで書かれており、複眼的にセールを眺められる仕様となっています。須田さんとはセリ会場内でも何度となくお話をし、ときには情報交換をしました。須田さんのコラムと併せてぜひご覧くださいませ。

日曜日は雨がパラつく寒い1日でしたが、月曜日のセリ初日は天候に恵まれ、気温もほどよいと感じられる気持ちのいい1日でした。



売り上げは絶好調で、1歳セッションの新記録となる約81億3030万円。1億円超えは14頭も現れました。このなかから再来年のクラシックを賑わす馬も出てくるでしょう。上位3頭は2億円を超えてきました。

★1位 2億6000万円
107番 ディープインパクト×オーサムフェザー(牡)



★2位 2億3500万円
99番 ディープインパクト×シャンパンドーロ(牡)



★3位 2億2000万円
156番 ディープインパクト×ドバイマジェスティ(牡)



最高価格馬となったオーサムフェザーの2015は、母オーサムフェザーが米2歳牝馬チャンピオンに輝いた名牝で、ブリーダーズCジュヴェナイルフィリーズ(米G1)など通算11戦10勝という成績を残しました。母の父 Awesome of Course は Deputy Minister 系ながら芝テイストの感じられる配合。3代母の父 Vaguely Noble は父と相性が良好です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2015104724/



落札価格第2位はシャンパンドーロの2015。母シャンパンドーロは現役時代にニューヨーク牝馬三冠のひとつエイコーンS(米G1)やテストS(米G1)を制し、その半弟 Ruler on Ice(父 Roman Ruler)は米三冠レースのひとつベルモントS(G1)を勝ちました。昨年のこのセリで2億3000万円で落札された半兄ギエム(父 Tapit)より1000万円安くなりました。パワフルな血統構成です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2015104343/



落札価格第3位はドバイマジェスティの2015。現2歳の全兄アルアインは素晴らしい出来映えとのことで、今年のPOGで人気を集めました。その全弟ですから言わずもがなといったところでしょう。母はブリーダーズCフィリー&メアスプリント(米G機Ε寸競魯蹈鵝砲鮴し、米牝馬チャンピオンスプリンターに選出された名牝です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2015104909/



上位3頭の母はすべてアメリカからの輸入馬ですが、1位と3位の母(オーサムフェザー、ドバイマジェスティ)はフロリダ産です。




2016年HBAトレーニングセール


5月23、24日に札幌競馬場で行われました。1日目が公開調教、2日目がセリです。2013年にモーリス(年度代表馬)がこのセリから羽ばたきました。

高額落札馬ベスト3は以下のとおり。
http://www.hba.or.jp/sales/result/s_2016_05_24.html

■80番. ┌ ルーラーシップ
 牝馬 └ サルヴァドール(父サンデーサイレンス)
      落札価格:4600万円(税抜)
      購買者:(株)ジェイエス
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2014105266/



■188番 ┌ スクリーンヒーロー
 牡馬 └ ファーマペニー(父ジャングルポケット)
      落札価格:3000万円(税抜)
      購買者:(株)ジェイエス
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2014102106/



■151番 ┌ フリオーソ
 牡馬 └ ナイツエンド(父エンドスウィープ)
      落札価格:2800万円(税込)
      購買者:(有)ビッグレッドファーム
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2014106369/



最高価格となったサルヴァドールの2014は新種牡馬ルーラーシップの牝馬。公開調教タイムは11秒06−10秒77。2ハロンの合計21秒83は全体のトップです。



新種牡馬ルーラーシップは、4月に行われたJRAブリーズアップセールでも最高価格馬(マイブルーヘブン)を出しており、東日本で春に行われる3つのトレーニングセールのうち2つで最高価格馬を出したことになります。

マイブルーヘブンはストライドの大きな走法でしたが、サルヴァドールの2014は回転の速いシャープなフットワーク。馬体重は452kgで、身体のバランスや肉付きが素晴らしく、早い時期の2歳戦からスピードに任せて走ってくるでしょう。配合的にも、2代母カリティバが Foreign Courier≒River Mystery 3×1で、本馬は Mill Reef≒Riverman(River Mystery の父)6×4という綺麗な展開が見られます。ルーラーシップ+サンデーサイレンスなのでドゥラメンテに近い配合構成でもあります。函館あたりでデビューして、新馬戦でいい勝ち方をしたら、そのまま2歳Sも勝ってしまうのではないか、と思わせる走りっぷりでした。




熊本地震の家畜飼料支援物資搬送


いまなお余震が収まらず甚大な被害が出ている熊本地震。テレビでその惨状を見るたびに心が痛みます。犠牲になられた方々に謹んでお悔やみを申し上げますとともに、被害に遭われた皆さま方に心よりお見舞い申し上げます。

沙流郡日高町にある三城ボクジョウは、以前から親しくさせていただいているのですが、このたび、こうした状況で忘れられがちな家畜向けの支援活動を開始するとの連絡をいただきました。

交通網が寸断されて流通に支障が出ていることはニュースで流れる情報のとおりですが、九州で家畜を扱う方々と連絡を取ったところ、飼料も残り少なくなってきているという状況が明らかになりました。座して行政の支援を待つよりは自ら動こう!というのが動機です。

4月22日に物資を積んだトラックで九州に出発するそうです。三城ボクジョウから届いた文面をそのまま転載いたします。

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熊本・大分地震で被災された皆様には、心よりお見舞い申し上げます。また亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈りいたします。

現在被災者の皆様への支援は、国や自治体を中心に動き出していると思います。細部への物資が行きわたっていなかったり、その量も十分ではなかったり。耐える日々が続いている方が多くいらっしゃると思いますが、なんとか強い気持ちを持ち続けていただきたいです。

こちら遠く離れた北の大地ですが、何か出来ることが無いかと考えてみました。三城ボクジョウとしましては、家畜の命に対して支援できないかと考えました。

東日本大震災では、牛・豚・馬への飼料が底をつき、目の前で倒れていく家畜を見届けることしかできなかったそうです。生き物の種別は違えども同じく生産育成に携わる者として、その教訓を活かしたいと思っています。
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三城ボクジョウの岩崎崇文さんは、東京の大学を出て2年目の若者で、某ドイツ車メーカーの就職を蹴って牧場勤務を選んだ変わり種。飼料を満載したトラックを自ら運転し、九州を目指すそうです。できるかぎり阿蘇に近い場所で荷物を下ろせたらと思っています、とのことで、飼料は馬用だけに限らないそうです。現在、三城ボクジョウの近隣にあるいくつかの牧場に寄付金を募っているそうですが、集まれば可能な限りピストン輸送を行いたい、とも。

若者の行動力とはなんと素晴らしいものかと思います。




フィル・スライ氏死去


オーストラリアの著名なオーナーブリーダーで、JRA馬主資格も所有されていたフィル・スライ(Phil Sly)氏が4月7日、ガンのため死去しました。57歳。この日が誕生日でした。



セレクトセールにも何度かいらっしゃったことがあり、ノーザンファーム代表の吉田勝己さんとの親交はよく知られていました。

オーストラリアで所有したベストホースはG1を4勝した牝馬モシーン。同馬は日本で繁殖入りし、ノーザンファームで誕生した初子(父ディープインパクト)は今年2歳を迎えました。日本で所有していた現役馬4頭を含め、これらの扱いが今後どうなるのか気になるところです。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2014106184/





イナリワン死す


ミルジョージは89年に総合リーディングサイアー(中央と地方を合算したもの)に輝きました。82年から続いていたノーザンテーストの連覇記録は「7」でストップ。その立役者となったのがイナリワンです。天皇賞・春(G1)、宝塚記念(G1)、有馬記念(G1)と3つのG1を制し、この年だけで3億円以上の賞金を稼ぎました。

ミルジョージとノーザンテーストの収得賞金の差は約1億8000万円。ミルジョージの中央における勝利数はノーザンテーストの半分以下だったにもかかわらず、収得賞金で上回ったのは、イナリワンの頑張りが大きかったからです。

ミルジョージは競走馬として無名に近かったので、種牡馬としての知名度も低く、初期の産駒は地方競馬に入厩することも多かったのですが、そこからロッキータイガー、ミルコウジ、シナノジョージ、ジョージレックス、ダイタクジーニアス、イナリワン、ロジータなど、地方競馬の名馬を次々と送り出し、一流種牡馬に上り詰めました。

ロッキータイガーはジャパンC2着馬。イナリワンは前述のとおり中央のG1を3勝し、年度代表馬に輝きました。「Mill Reef×Ragusa」という組み合わせは、キングジョージ6世&クイーンエリザベスSを勝った馬同士の配合であり、気性の激しさ、パワー、芝適性に加え、母の父 Ragusa は Ribot 系なので大舞台での強さにも定評がありました。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1984106229/



イナリワンを競馬場で初めて見たのは、まだ重賞に登場する前の3歳時でした。怪我で春のクラシックを棒に振ったものの、デビュー以来の連勝を継続しており、大物候補として大井ファンの間で噂になっていました。

87年8月のりんどう特別(ダ1600m)だったと思いますが、イナリワンを見るためにナイトレースの大井競馬場を訪れました。中団追走から直線で外に持ち出し、余裕綽々の手応えで鮮やかに差し切りました。ここではクラスが違うな、と思いました。

それ以降、ほとんどのレースを競馬場に足を運んで見ています。フェートノーザンとの一騎打ちとなった笠松の全日本サラブレッドC(ダ2500m)も現地に行きました。このときの様子は『地方競馬の黄金時代』(斎藤修監修/戎光祥出版)に寄稿しています。
http://www.amazon.co.jp/dp/4900901970

イナリワンの血統は、「ミルジョージ×ラークスパー×ソロナウェー」というもので、母方の血は、当時にあっても古くささを感じさせるものでした。ただ、3代母ヤシマニシキは二冠馬ボストニアンの全姉で、4代母の神正はダービー馬トクマサの半妹と質が高く、当時好きだったガルダンサー(札幌3歳S)も神正のファミリーから誕生していたので、血統に親しみを持ちました。

母方にソロナウェーを持つミルジョージ産駒は成功しており、スーパーグラサード(新潟大賞典)、ジョージタイセイ(東京ダービー)、ツキノイチバン(金盃、アフター5スター賞)、イーグルジャム(東海大賞典)などが出ています。

イナリワンの中央におけるパフォーマンスは地方時代よりも素晴らしく、前述のとおりG1を3勝。そのうち天皇賞・春と有馬記念はレコード勝ちでした。長距離専用ではなく、毎日王冠(G2)ではオグリキャップと馬体を接しての追い比べとなり、わずかハナ差敗れましたが、この年のベストレースに推す声もあったほどの名勝負でした。

引退式はオグリキャップの伝説のラストランの当日昼、中山競馬場で行われました。史上最も多くの人に見送られた引退式だったと思います。

種牡馬としては、地方競馬でツキフクオー(東京王冠賞)やイナリコンコルド(大井記念など重賞4勝)が重賞を勝ちました。しかし、中央競馬ではシグナスヒーローがアメリカJCC(G2)、日経賞(G2)など5つの重賞で2着を重ねたものの、ついにタイトルを手にすることはありませんでした。

スピードと瞬発力を武器とするサンデーサイレンスが日本競馬に革命を起こし、なおかつトニービンやブライアンズタイムのような質の高い種牡馬が台頭することによって、イナリワンのような旧時代の血が通用する余地はなくなりつつありました。

2月7日、北海道占冠村あるぷすペンションにて、32年の生涯を閉じました。繁殖牝馬に残ったわずかな血から、いつか大物が誕生して重賞を勝ってほしいものです。






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