幻の馬


10戦全勝で日本ダービーを制し、その17日後に死亡したトキノミノル(1948年生)をモデルに、1955年、同馬の馬主・永田雅一が社長を務める大映が『幻の馬』という映画を制作しました。わたしにとっては“幻の映画”だったのですが、昨年12月15日、角川シネマ有楽町で観る機会に恵まれました。

「大映70周年特集」と銘打って上映された40本余りの映画のなかの1本で、上映期間はわずか3日間。友達が教えてくれたおかげで、最終日に滑り込みで鑑賞することができました。後で知ったのですが斎藤修さんもいらっしゃっていたそうです。

作品のクオリティとしては正直なところ、ウ〜ン……という感じなのですが、1950年代の日本競馬の映像記録としてはきわめて貴重です。しかもカラー! 人間の心理として、日常の当たり前の光景ほど後世に残す価値を感じないものですから、このような映画が作られないかぎり、当時行われていた競馬の様子が素に近い状態でカラーフィルムに収められることはまずなかったでしょう。

1933年に完成した東京競馬場の初代スタンドが、鮮やかなカラー映像でスクリーンにドーンと現れると、こりゃ凄いと感嘆せざるをえません。圧倒的な存在感です。三十数年前に倒れてしまった3コーナー内側の大ケヤキも確認できます。レースシーンも素晴らしいですね。低空からの空撮は迫力十分で感心しました。

ホウヨウボーイ、アンバーシャダイ、シリウスシンボリなどを管理された故二本柳俊夫調教師(当時は騎手)が出演されているのも見どころです。セリフをしゃべっているのですが、かなりハイグレードな棒読みだったので劇場に緊張感が走りました(笑)。

映画の主役はタケルというサラブレッド。冒頭に記したとおりトキノミノルがモデルです。伝記映画ではないので、じっさいには存在しない数々のエピソードがストーリーに盛り込まれています。ただ、牧場のシーンに登場する「テトラーチの3×4」というセリフは史実に沿ったものです。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/000a01029a/



見てのとおりトキノミノルは The Tetrarch 3×4。同馬を生産した本桐牧場の笠木政彦さんが「フィッツラックの18.75%理論」を参考にこの配合を狙って作ったのは有名なエピソードで、いわゆる“奇跡の血量”というやつですね。いまではほとんど聞かなくなりましたが、わたしが競馬を始めたころは配合理論といえば奇跡の血量、というぐらい頻繁に耳にしたものです。トキノミノルを作った実績がなければとっくに見向きもされなくなっていたでしょう。

ご紹介したシーンのいくつかは YouTube にアップロードされているので、興味のある方は検索してご覧になってみてはいかがでしょうか。




『セクレタリアト/奇跡のサラブレッド』


2010年にアメリカで公開されながら、日本では劇場公開されず、ソフト化が待ち望まれていた映画『Secretariat』。6月20日に『セクレタリアト/奇跡のサラブレッド』というタイトルでDVDと Blu-ray が発売されました。レンタルも開始されています。

実在の馬に材を取った映画といえば、最近では『シービスケット』(03年・米)が有名です。競走馬を主役として一般向けに娯楽映画が作られる文化はアメリカ以外にはあまり見られません。日本でも『シンザン/神の馬』といった映画が作られないものでしょうか? 武田文吾役は香川照之あたりで^^

『セクレタリアト/奇跡のサラブレッド』は、事前に Amazon で予約していたので、発売日の翌日にはディスクが家に届きました。わたしは仕事場の壁に Secretariat のパネルを飾るほどのファンです。緑豊かな牧場、美しいレースコース、そのなかを疾走する Secretariat。そうした映像美に加えて、ブルとセスのハンコック親子、オグデン・フィップスといった競馬界のビッグネームが登場するのですから堪えられません。
http://www.youtube.com/watch?v=DnFdOqctIjM

ストーリーの展開上、罪のない範囲で史実に若干手を加えていますが、もちろんまったく気にならない程度です。特典映像として Secretariat のドキュメンタリーも収録されており、ここには当時の映像がふんだんに盛り込まれているのでお得感があります。

Secretariat をめぐる人々の詳しい事情、種付け権利の販売などについてお知りになりたい方には、88年にサラブレッド血統センターが出版した『ホース・トレーダーズ』(スティーヴン・クリスト著・草野純訳)がオススメです。

先日、Secretariat のプリークネスS(米G1・ダ9.5f)の勝ちタイムが1分53秒0に訂正されました。これで米三冠すべてのレコードタイムが Secretariat のものとなりました。1973年からじつに39年が経過しても、どれひとつ破られていないわけですから、Secretariat は公平に見てアメリカ史上最強馬であり、サラブレッドという種が到達した究極の1頭といえるでしょう。まさに「奇跡のサラブレッド」です。
http://www.pedigreequery.com/secretariat





映画『マネーボール』を観る


 大リーグの裏側を舞台とした野球映画です。「セイバーメトリクス」という革新的な選手評価方法を信奉するゼネラルマネージャーが、旧来の価値観とぶつかり合いながら貧乏チームを立て直していく、というストーリーで、主人公のビリー・ビーンをブラッド・ピットが演じました。

個人的にはここ20年ぐらい野球に対して興味が湧かないのですが、この映画は楽しく見ることができました。原作については『血統屋』の配合診断ページで触れています。
http://www.miesque.com/shindan.html

サブタイトルは「The Art of Winning an Unfair Game」、すなわち「不公平なゲームに勝つコツ」です。作品に心を惹かれたのはこの部分ですね。

プロスポーツはおおむね資本の勝負です。馬産も同様です。大手は金とノウハウがあり、選りすぐりの繁殖牝馬と名種牡馬を擁しています。それらを持たない中小の生産者や馬主にとっては「不公平なゲーム」でしょう。大手と同じことをしていては永遠に差は縮まらず、そもそも大手と同じことをするだけの金銭的余裕もありません。

ではどうするか? お金がなければ知恵を絞るしかありません。大仕事をやってのけるには発想の転換が必要で、野球における「セイバーメトリクス」に相当するものが馬産においては「配合研究」であるとわたしは考えます。最小の資本で最大の効果を挙げるにはこれしかありません。

主人公ビリー・ビーンの娘がギターを弾いて歌う「The Show」は、この映画のテーマソングで、なかなかいい味を出しています。
http://www.youtube.com/watch?v=M_-qbbCsAeM

オリジナルのヒットソングを歌ったのは Lenka。彼女にはライブで披露する「Vincent O'Brien」という持ち歌があります(オリジナルは M.Ward の作品)。ヴィンセント・オブライエンとはいうまでもなく Nijinsky、Sir Ivor、Alleged、The Minstrel、Sadler's Wells などを管理したアイルランドの名調教師。ただし、歌詞の内容は競馬とは一切関係なく、単なる偶然の一致です。




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