パーフェクト種牡馬辞典


Galileo の凱旋門賞


第1Rのマルセルブサック賞(G1・芝1600m)の勝ちタイムは1分35秒85。第2Rのジャンリュックラガルデール賞(G1・芝1600m)は1分35秒53。牝馬と牡馬の2歳G1がこの時計ですから、馬場コンディションは前日に比べると良化していました。

しかし、勝ち時計よりもはるかに注目すべきはレース内容です。土曜日の競馬のあと、仮柵を外したのですが、その影響で前に行った馬が止まりません。第3Rのオペラ賞(G1・芝2000m)も行った行ったの決着。

仮柵は本来の内ラチから12mの地点に張り巡らされていたので、日曜日の競馬は前日に踏み荒らされていない場所を走ります。理屈の上では平等なはずですが、レースを見ていると、内ラチから1、2頭分のごく狭いスペースを通った馬しか勝負になっていません。路盤に何か問題があるのではと勘ぐりたくなるほど露骨に伸びが違っていました。先に行った馬が残るのも、そのスペースを通っているからです。

「凱旋門賞パブリックビューイング」に電話出演した際にも、前に行かなければまったく勝負にならず、中団以下でレースを進めて外を回らされたらノーチャンス、という話をさせていただきました。もちろん、わたしが気づく程度のことは、凱旋門賞出走馬の各陣営は把握していたはずです。

その結果、凱旋門賞は超ハイペースとなりました。位置を取りにいかないと勝てないのですから、先行争いが激化するのは必然です。そのなかに◎マカヒキ(2番人気)もいました。賢明な判断でしょう。

ただ、馬は生き物ですから、机上の計算どおりには動きません。スタートから出していく競馬をしたのはデビュー以来初めて。そのため、ハイペースだったにもかかわらず序盤に掛かり気味となりました。なおかつ、内に潜り込むことができず、終始外を回らされることになりました。3コーナー過ぎの坂の下りでは5〜6頭分の外。枠順と馬場状態から、こうした競馬になったのも仕方がなかったとはいえ、この日の好走パターンとはかけ離れたものです。さすがに厳しかったですね。4コーナーを回って早々にフェードアウトしていきました。○Postponed(1番人気)、△Left Hand(5番人気)といった人気どころも内に潜り込めず馬券圏内に入れませんでした。
https://youtu.be/AKxROR-CuOo



1着△Found(4番人気)、2着 Highland Reel(10番人気)、3着△Order of St George(8番人気)は、すべて Galileo 産駒。そしてエイダン・オブライエン厩舎に所属するクールモア軍団です。見事というしかありません。ヨーロッパのスーパー種牡馬と天才調教師のコンビが鮮やかに上位を独占しました。

勝った Found の鞍上はライアン・ムーア。12番枠と決して恵まれた枠ではなかったのですが、先に行くことよりもまずラチ沿いをキープすることを優先し、そこからじわじわポジションを上げて行きました。2着 Highland Reel はチームのラビット役だったので当然先に行きます。マカヒキを内に入れないようにブロックしたのもひょっとしたら作戦だったのかもしれません。3着 Order of St George は大外16番枠から1頭だけ馬群を離れて外ラチ沿いを進み、コースをショートカットするように2番手に付けました。デットーリ騎手の大胆な作戦が当たりました。どうすれば勝てるのか、ということをチームで綿密に戦略を練り、見事に結果を出しました。これぞプロフェッショナルの仕事です。

勝ちタイムの2分23秒61は、86年の仏ダービーで Bering が記録した2分24秒1を30年ぶりに更新するものです。仏ダービーは05年から2100mに短縮され、現在シャンティイで2400mのG1は行われていません。今回の Found のレコードは、同じくシャンティイで開催される来年の凱旋門賞で更新されなければ、ほぼ永久に残りそうです。



土曜日よりも馬場コンディションが回復していたとはいえ、パンパンの良馬場ではありません。稍重に近い良馬場でしょうか。そのなかを1ハロン平均12秒を切る超ハイペースで展開した競馬は、恐ろしくハイレベルなものでした。

Galileo は、パワーと底力を必要とする馬場で圧倒的な力を発揮します。それゆえに、イギリスやアイルランドほど馬場がハードではないフランスの凱旋門賞では連対した実績がなく、今年はロンシャンよりもより平坦なシャンティイ開催なので、なおさら好走する可能性は低いと考えていました。

しかし、英愛種牡馬ランキングで計7回首位に立ち、歴史的名馬 Frankel の父となり、今年の英愛サイアーランキングで2位にトリプルスコアをつけて独走しているといった数々の偉績は、一介のパワー型種牡馬にできることではありません。ジョッキーの好判断があったにせよ、洋芝における究極の持続力勝負で化け物じみた力を発揮し、スピード負けすることなく驚異的なタイムで上位を独占した今回の結果は、Galileo の新たな可能性を示したものと言えるでしょう。と同時に、イギリスとアイルランド競馬の奥深さをあらためて認識させられました。Galileo に見られる並外れた持続力は、日本の競馬でいくら選抜と淘汰を繰り返したところで、血統的に備わっていくものではありません。
http://www.pedigreequery.com/found9



マカヒキの父ディープインパクトは、その父サンデーサイレンスに由来する瞬発力を伝えます。ラストの切れ味は天下一品です。ただし、超ハイペースの消耗戦になると、脚が溜まらずに持ち味を発揮できないまま敗れるともしばしばです。今回のマカヒキは、得意技を繰り出す前にそれを封じられてしまい、なすすべ無く敗れました。枠順抽選など運の悪い部分もありましたが、ここまで負けてしまうのは実力が及ばなかったということです。そして、持続力勝負に対する弱さは、日本の競走馬に共通する弱みでもあり、それは我が国の競馬のスタイルに根ざしたものである以上、改善するのは難しいと感じます。

レースが終わったあと、1コーナー寄りにある待機馬房のエリアに、金子真人オーナーとそのご家族が訪れました。大きく負けてしまったので、マカヒキの体調を確認するためにいらっしゃったのでしょう。その4時間ほど前、同じく金子オーナーが訪れたときには、リラックスムードで厩舎スタッフともどもにこやかな表情でした。しかし二度目は、負けた直後とあって笑みは見えず、馬房から出されて曳き運動をするマカヒキを、金子オーナーと友道調教師が無言でじっと眺めていました。



歩様に異状は見られず、蹄鉄は4つ装着しており、鼻出血もありません。要するにアクシデントはなかったということです。しかし、消耗の激しいレースの後だけに、やはり疲れて見えました。眼の力が弱い、と思いました。オーナーが帰ったあと、洗い場で水を掛けられているときに、我慢強いマカヒキが厩務員に甘える仕草を見せました。そのときふと胸を衝かれる思いがしました。サラブレッドは走るマシーンではなく、感情豊かな生き物です。この1ヵ月半、ベストを尽くしてよく頑張ったと思います。



シャンティイグヴィユ駅から電車に乗り、窓外の田園風景を眺めながら、Galileo とディープインパクト、日本競馬の今後について思いを巡らせているうちに、あっという間にパリ北駅に到着しまいた。朝から何も食べていなかったので、目に付いたレストランに飛び込み、フィレステーキを注文しました。



毎年お約束ですが、これを食べないとパリに来た気分がしません。日本馬がどんな成績であろうと美味しいものは美味しいと再確認しました。ビール付きで18ユーロですから安くてビックリです。

マカヒキとその関係者の皆さま、本当にお疲れ様でした。存分に楽しませていただきました。ありがとうございます。今回の旅でレース以外に印象に残った出来事は、土曜日の競馬場でアレック・ヘッドに握手をしてもらったこと。92歳とは思えぬ若々しさです。大きく柔らかな手でした。



コメント
日本馬が好走する時は勝ち時計が2分30秒以上の時なんですよね
日本よりタフな馬場でさらに時計がかかる状態だと
日本馬に不向きな気がしますが実際には速い時計で決着する時の方が苦戦してます。何故なんでしょうか?
  • ななし
  • 2016/10/03 4:23 PM
栗山様
今年も凱旋門賞の現地情報を有難うございました。

勝ち時計から推察すれば、極めてハイレベルな持久力が求められるレースとなったことが判ります。ディープインパクト産駒でも折衷型(母から主にスピードや器用さ、パワーを受けるタイプ)のマカヒキには真のスタミナ争いという面では厳しく過酷なものとなりました。外枠、仮柵路への先陣争い、内埒沿いのポジションを得られず外を走らされたこと、道中折り合いを欠く場面などもあったようですが、シャンティイの馬場自体は英ターフのようなアンジュレーションも少なく、本来のロンシャンと比べても、より日本馬には適していたことは事実でしょうから、素直に彼我の力量差を直視すべきと思います。もちろん当地でリターンマッチをすれば結果はまた違ったものにはなるのでしょうが。

A.オブライエン師の上位馬に比べて彼の体がスキニーでなかったとの評は気になります。またオブライエン陣営の恰もF1レースのチームオーダーの様なことをタクティクスと語っているのも唯1頭極東から乗り込んだ遠征馬には厳しく辛い話として聞こえました。エイシンヒカリが示したように優秀なサンデーサイレンス系産駒の到達点は既にワールドクラスであり、この結果をもって悲観することはありませんが、ただ、欧遠征に適する個体の選別はもっと思料があってよいのでは、と感じました。
  • ヒデハヤテ
  • 2016/10/04 10:44 PM
>ななし様

凱旋門賞は仮柵を外した後に行われるので、どんな馬場状態でも基本的に前に行った馬や内を回った馬が有利ですが、良馬場だとなおさらその傾向が強まり、今回のようにハイペースの持続力勝負になりやすいからではないでしょうか。日本馬は瞬発力が活きる流れのほうが好走しやすいと思います。日本馬の好走凡走は、馬場コンディションよりもむしろレース展開のほうが比重が大きいのでないか、という気がします。
>ヒデハヤテ様

凱旋門賞は日本から数千キロを移動しての競馬で、ふだんとは違う調教メニューを消化し、馬場や競馬スタイルも異なるわけですから、周知のとおり高度な遠征技術が求められます。そうしたノウハウが1年ごとに蓄積され、わが国の遠征技術向上のために情報が共有されればいいのですが、現状、遠征する陣営ごとの経験値にとどまり、貴重なノウハウが共通認識となりづらい状況となっています。オールジャパン的なバックアップ態勢の構築が可能になればいいなと思います。利害のあることなので現実的には難しいとは思いますが……。
エイシンヒカリのイスパーン賞圧勝と英での惨敗、3歳時はチャンピオンでなかったナカヤマフェスタの凱旋門賞2着好走などからも、その個体の欧州馬場への適性は遠征前の最重要検証項目になってきていると感じます。血統、フォーム、体型、競走成績などからある程度は推測可能かと考えます。また仰る通り遠征ノウハウの集積と進化が現状では個別的な範囲にとどまり、共有財産となり辛い点は残念です。このままでは例えば、Akihiroなどの外国調教馬が先に大仕事を果たすか、或は調教師の国際化、自由化まで待つことになるのかも知れませんね。
  • ヒデハヤテ
  • 2016/10/11 6:54 PM
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