パーフェクト種牡馬辞典


笠雄二郎著『血統あれやこれや1985年復刻版』発売開始


19歳か20歳ごろ、血統専門誌『週刊競馬通信』の読者となり、21歳のときに大学に通うかたわら発行元である競馬通信社で編集作業のお手伝いをするようになりました。1989年の秋のことです。編集部にはバックナンバーがあり、1日の作業が終わって帰るまでのわずかな時間、終電の時刻を気にしながら読み耽ったものです。

当時、『週刊競馬通信』は雑誌でしたが、それ以前はB4サイズのペーパーでした。1985年2月17日付けのバックナンバーに、笠雄二郎さんの「プレストウコウの菊花賞」がありました。サブタイトルは「血統を信じるかどうかは各自の洞察力にかかっている」。

スプリンター血統といわれたプレストウコウが菊花賞を制し、それが血統信ずべからず的な論調で取り扱われたことへの怒りが紙面から立ち上っており、その迫力に引きつけられて読み終えました。正々堂々、配合的立場から反駁した日本唯一の論考でしょう。目から鱗が落ちました。

もちろん、笠雄二郎の名は、『日本サラブレッド配合史』の著者として以前から知っていました(『サラブレッド配合史』と改題して血統屋から電子書籍版が発売中です。http://www.miesque.com/c00001.html )。バックナンバーを漁って「笠雄二郎」とクレジットの付いた文章をすべてコピーし、それらを繰り返し読んだものです。

「配合には、この方法一つ、ということはありえない。その時代、その時点での全血脈の軽重、多少、強弱を測りながら、その時代の流れに沿った近交系や異系の導入をバランスよく2代、3代にわたり狙っていかなければいけないこともある。単なる思いつきや無計画では、シンボリ牧場やメジロ牧場のような意思の濃い成功は得られないだろう。」(ハイペリオン血脈の復活 その2)

「東京競馬には長い時間をかけて育んできた思い入れがある。タニノハローモアがダービーを勝った年から府中に通い始めた。徹夜していようがチャーリー・パーカーなぞ聴くと、もうニコニコして出かけたものだ。
 当時は朝一のパドックなぞ閑散としていて、売場の建物の1階中通路は、東から西の端まで人が一人も見えないという瞬間すらあった。そこで1800や2000mのレースに狙いすまして勝負するのが生きがいのようなものだった。」(短距離偏重は競馬の自殺行為だ その1)

「競馬を見る時はなるべく惚れる馬を作りたくない。アバタもエクボとなるよりは、その馬のいいところも弱点もわかった上で、その馬と接してみたい。そうした冷めた作業の果てに、人それぞれ独自の発見やその確認があって、競馬にもしロマンがあるとすれば、時間の流れとともに、その馬と自分との温かい関係が生じてくるだろう。」(オークスは Hyperion クロスを)

「6月11日朝4時、私はびっしょり寝汗をかいて目が覚めた。梅雨のひんやりした夜なのに奇異なことと思いながら、汗を拭き、シャツを着替えて、また床に就いたが、頭がシンと冴えてしまってなかなか眠れなかった。明けて、日刊スポーツに仕事に行ったら、郷原と柴田が泣きながら調教している写真があったので、びっくりしてしまった。中島啓が死んだというのである。中島啓が死んだのである! 中島啓が死んだ。中島が死んだ。中島が死んだ。中島が死んだ。中島が死んだ。中島が死んだ。中島が死んだ。中島が、なかじまひろゆきがしんでしまった。」(あぁ……… なかじまひろゆき)

ギラッとした鋭さと、詩的な色気。それを併せ持つ文章がテンコ盛りなのですから、おもしろくないわけがありません。27年前、わずかな読者しか持たなかったミニコミ紙に発表されたまま、これらは放置されてきました。媒体が媒体ですから、プレストウコウに関する怒りは、当時の競馬界のメインストリームには届かなかったでしょう。しかし、少なくともそれを読んだわたしには痛いほど伝わってきましたし、それはいまだに胸のどこかにあって、血統について書いたりしゃべったりする際にモチベーションのひとつとなっているような気がします。

1985年に書かれた笠雄二郎さんのコラムを掘り起こし、『血統あれやこれや1985年復刻版』と題して電子書籍にまとめ、血統屋から売り出すことになりました。

原版をそのままコピーして製作したので、当時の紙面そのままです。血統表は手書きで、文章にもところどころ修正の筆が入っています。それも当時の雰囲気を伝える味となっていると思います。普遍性のある内容なので古びていません。我が国の競馬文化の大きな財産のひとつでしょう。ひとりでも多くの皆さまにお読みいただければ幸いです。
http://www.miesque.com/shopping.html



コメント
「血統あれやこれや1985復刻版」、購入しました。
「週刊競馬通信」は全て持っていましたが、これは初めて。いいですね。内容濃いし、手書きで味わい深いです。じっくり楽しませてもらいます。有難うございます。
キクノペガサスに触れられていますが、確か85年の秋、母のエクレアを見に漆原さんの牧場へ行ったら、既にエクレアは亡くなっており、お墓参りをして帰って記憶が蘇りました。あの頃はF9-Lady系の実馬を見られるというだけでテンション上がってました。

  • ヒデハヤテ
  • 2012/09/30 2:32 PM
>ヒデハヤテ様

お買い上げいただき誠にありがとうございますm(_ _)m 『週刊競馬通信』の読者でいらっしゃいましたか……! 「血統あれやこれや」が連載されていたころはまだ雑誌形式ではなくペーパー形式で、知名度も乏しくごくごく限られた読者しか手にされていません。競馬会の図書室や国会図書館にもないはずなのでこの本でしか読めない文章だと思います。キクノペガサス、懐かしいですね〜。わたしもスティーヴスアニーの牝系は上品さが感じられて好きでした。ペガサスの姪のセニョーラマミーという馬をペーパーで取って応援したのを思い出します。
コメントする








   
この記事のトラックバックURL
トラックバック



プロフィール

カレンダー

S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
<< September 2017 >>

最近の記事

カテゴリー

アーカイブ

recent comment

  • 「一口馬主好配合馬ピックアップ」で栗山がキャロットを10頭ピック
    栗山求
  • 「一口馬主好配合馬ピックアップ」で栗山がキャロットを10頭ピック
    ボリュー
  • 「一口馬主好配合馬ピックアップ」で栗山がキャロットを10頭ピック
    栗山求
  • 「一口馬主好配合馬ピックアップ」で栗山がキャロットを10頭ピック
    ボリュー
  • 「一口馬主好配合馬ピックアップ」で東サラを4頭ピック
    栗山求
  • 「一口馬主好配合馬ピックアップ」で東サラを4頭ピック
    匿名希望
  • 山野浩一さん死去
    Horses_BERG
  • 山野浩一さん死去
    ヒデハヤテ
  • 山野浩一さん死去
    クラウディオ・スアレス
  • 栗山求・望田潤の「一口馬主好配合馬ピックアップ2017」開始!
    栗山求

recent trackback

LINK

検索

携帯

qrcode