パーフェクト種牡馬辞典


異常気象と競馬


今年は日本海側や東北・北海道を中心に大雪となっています。雪害に遭われている皆さまには心からお見舞い申し上げます。


過去の東京の降雪で記憶に残っているのは84年。この年は1月から3月までずっと雪が降り続いた印象があります。20cm超えの降雪もありました。街には常に雪が残り、路上の雪をかき集めた小山が辻ごとにあるという、雪国さながらの光景が見られました。気象庁天気相談所が作成した資料によると、83年末から84年春にかけてじつに29回の降雪がありました。1876年の観測開始以来最多です。


この年は競馬も大変でした。アメリカJCC、日経新春杯、中日新聞杯、京都牝馬特別がダート変更となっています。芝の植生にも甚大な影響があり、とくに東京競馬場は芝なのか土なのか分からないような馬場となってしまいました。シンボリルドルフが勝った84年のダービー実況で、フジテレビの盛山アナウンサーは「3コーナーの坂を上るところ、今年の馬場は悪い、府中の馬場は悪い、いちばん悪いのはこのへんであります」としゃべりました。良馬場にもかかわらず2分29秒3もかかったのはそういうわけです。
http://www.youtube.com/watch?v=6020lfYUbKs


競馬はインドアスポーツではないので、気候の影響をまともに受けます。「異常気象」という言葉はせいぜい数十年単位の“異常”でしかなく、はるか昔には、現代では想像もできないようなことが起こっていました。


たとえば、日本では幕末にあたる1867年の英ダービーは、雪のなかでレースが行われました。6月に雪が降る、というのは現代の常識では考えられません。ちなみに、勝ち馬の Hermit は、引退後に7年連続で英愛リーディングサイアーに輝いた大種牡馬となりました。


14世紀半ばから19世紀ぐらいまで、世界の気温は現代よりも低かったことが分かっています。過去400年間にわたる太陽黒点の観察記録から、その原因は主に太陽活動の低下によるものと考えられています。17世紀から19世紀にかけて、ロンドンを流れるテムズ川や、アメリカのニューヨーク湾が凍結したという記録が残されています。オーストラリアのシドニーでは降雪を記録しました。大坂の淀川や江戸の隅田川は何度か凍結し、1822年2月22日には江戸で約2mの積雪があったと記録されています。現代から見れば異常なことですが、大きな気候サイクルのなかで正常と異常の基準点は刻々と変化しているので、その当時は異常なことではありませんでした。


気象観測が行われるようになってから最も寒かった年は1816年。時代的に低温が基調だったことに加え、前年にインドネシアのタンボラ山が大噴火を起こし、地球全体に拡散した火山灰が地表に届く太陽光線の量を減少させたことが異常低温を引き起こした理由と考えられています。6月に吹雪が起き、7月、8月と断続的に寒波が襲って河川や湖が凍結しました。このあたりは『夏が来なかった時代』(桜井邦朋著・吉川弘文館)に描かれています。


当然、農作物は致命的な打撃を受け、馬の飼料も不足しました。そこで、ドイツの発明家カール・フォン・ドライスは、馬に替わる乗り物として1817年にドライジーネという木製の二輪車を発明します。これが自転車の原型となりました。転んでもただでは起きないのが人類の叡智といえるでしょう。長い目で見れば、馬が人にとって最も手軽な移動手段だった時代の終わりは、1816年の異常気象に始まったといえます。


自転車の原型は一般的に「ベロシペード」と呼ばれ、19世紀半ばに広く親しまれました。いまでもこの言葉は、ロシア、ブルガリア、ラトビア、マケドニアといった言語で自転車を示す語として残っています。造語したのはニセフォール・ニエプスというフランス人発明家。1818年のことです。


そのわずか7年後、1825年にイギリスで Velocipede という名のサラブレッドが誕生しました。流行をいち早く馬名に取り入れようとするのはいまも昔も変わりません。現役時代にセントレジャーで3着となり、引退後はそこそこ名の知れた種牡馬となりました。19世紀を代表する大種牡馬 St.Simon の血統表にも見ることができます。ただ入っているだけでなく、Merope≒Velocipede 3×5という4分の3同血クロスの形で持ちます。サラブレッドの常識を覆した大種牡馬に、馬を超える革命的な人力駆動機の名を冠した血が大きな役割を果たしているのは、偶然とはいえ象徴的なことだと感じます。
http://www.pedigreequery.com/st+simon






馬なりで初戦快勝ヴォードヴィリアン


 ■日曜東京5Rの新馬戦(芝2000m)は、好位追走の◎ヴォードヴィリアン(2番人気)が手綱を抑えたまま差し切りました。
http://www.youtube.com/watch?v=XkzYKK_wFu0


1000m通過が1分07秒3、1400m通過が1分34秒4。この超スローペースでは上がりが速くなるのは当然で、最後の2ハロンは11秒0−11秒1でした。これを馬なりで楽々と差し切ったのですから脚力が違いました。


予想は◎△▲で馬単3510円、3連単9810円的中。『ブラッドバイアス・血統馬券プロジェクト』に提供した予想を転載します。


「◎ヴォードヴィリアンは『アグネスタキオン×ディクタット』という組み合わせ。母トークショウはインザウイングス(BCターフ、コロネーションC、サンクルー大賞典)の半妹で、サドラーズウェルズとシャーリーハイツのニックスを持つ本格派。父アグネスタキオンに希薄な重厚さを補っている。母の父がディクタットなのでステイヤーではなく、芝2000mの新馬戦に合うタイプだろう。」
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2009102655/



母の父ディクタットは Cape Cross の甥、Iffraaj の従兄弟にあたるスピード型の種牡馬。現役時代、スプリントC(英G1・芝6f)とモーリスドギース賞(仏G1・芝1300m)を勝ったほか、安田記念(G1)で2着という成績があり、種牡馬としても日本で2年間(08、09年)種付けを行いました。ジュライC(英G1・芝6f)などG1を5勝した Dream Ahead が代表産駒です。「ウォーニング×Sadler's Wells」という組み合わせは Charnwood Forest と同じ。同馬はエリザベス女王杯を2連覇した Snow Fairy の母の父として知られています。日本向きの適性がある血といっていいでしょう。


Sadler's Wells と Shirley Heights というヨーロッパの馬場に向いたニックスを持ち、それでいながら重さが前面に出なかったのは、ディクタットのスピードのおかげでしょう。スピードとスタミナがバランスよく伝わっている印象で、底力があるタイプですから昇級後も楽しみです。道悪は上手いはずです。


■日曜東京7Rの3歳500万下(芝2000m)は、フェノーメノ(2番人気)が直線で早め先頭に立ち押し切りました。
http://www.youtube.com/watch?v=W3ee0FPhumg


通算成績はこれで3戦2勝。7着だった前走のホープフルS(2歳OP)は、結果的に位置取りが後ろだっただけで、勝ち負けを争う一群には加わっていました。今回は新馬戦を勝ったときのような先行抜け出し作戦。ゴチャゴチャしないレースが合っているのでしょう。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2009106599/



母方にデインヒルを持つステイゴールド産駒なので、宝塚記念を勝ち凱旋門賞でも2着となったナカヤマフェスタと同じです。ナカヤマフェスタの母ディアウィンクは His Majesty 2×4でしたが、フェノーメノの母ディラローシェは Ribot 4×4。Ribot 系のクロスを持っているところまで似ています。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2006102424/



ステイゴールドは昨年、産駒が芝2000m戦で26勝し、この距離で最も多くの勝ち星を挙げた種牡馬となりました(2位はディープインパクトの24勝)。連対率もトップです(この条件で勝利数10位以内となった種牡馬が対象)。芝2000m、という条件が合う種牡馬です。


先行して粘り強い、というレースぶりもナカヤマフェスタと似ており、荒れ馬場や渋った馬場ならさらに力を発揮できるでしょう。サンデー系は基本的に後ろから行って切れる、というレースパターンを得意としています。20年ぐらい前と比べて上がりを競うレースになりがちなのは、競走馬の個性が変わってきていることも要因のひとつとして挙げられると思います。ハイペースへの耐久力のある馬がどんどん前で競馬をするようになれば、それも変わってくるでしょう。ステイゴールド、ダイワメジャー、キングカメハメハ、シンボリクリスエス産駒などは、ハイペース耐性があるタイプなので、前残りで穴をあけそうなレースで積極的に狙ってみたいところです。





良化の余地大きいロードアクレイム


 ■日曜小倉10Rのくすのき賞(2歳500万下・ダ1700m)は、中団から徐々にポジションを上げたフリートストリート(2番人気)が直線で4馬身突き抜けました。これでデビュー2連勝。
http://www.youtube.com/watch?v=qWl-KO6jDjI


1勝馬同士では力が違いました。鞍上の中舘騎手にはもう1頭、全日本2歳優駿(G1)を勝ったオーブルチェフというお手馬がいましたが、骨折してしまい春のレースには出られません。この馬はその代役となりうる好素材です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2009102638/



父 Street Sense は現役時代、ケンタッキーダービー(米G1)とブリーダーズCジュヴェナイル(米G1)を両方勝った初めての馬でした。母方に Dixieland Band、His Majesty という本格的な血が入るので、アメリカ産馬にしては重厚なタイプで中距離を苦にしません。今年の3歳世代が初年度産駒で、日本ではすでに同じ角居厩舎に所属するストリートハンターが勝ち上がっています。旧ブログの昨年6月11日のエントリーで取り上げました。
http://blog.keibaoh.com/kuriyama/2011/06/post-c056.html


アメリカでは、イロクォイS(G3)を勝った Motor City、フリゼットS(米G1)3着の Miss Netta が現時点における代表産駒。晩成傾向があると思われるので、これから頭角を現してくる馬もいるでしょう。


Machiavellian と Glorious Song を合わせて Halo クロスが生じるパターンはたまに目にしますね。Shamardal やアサクサデンエンなどがそうです。ヴィルシーナの母ハルーワスウィートや、前記のストリートハンターも同じです。本馬はモハメド殿下の所有馬ですが、その兄君ハムダン殿下が所有するストリートワイズ(未出走)は「Singspiel×Machiavellian」という組み合わせなので、ちょうどフリートストリートの父と母をひっくり返したような配合です。調教で好時計をマークしており、いずれ出てくる新馬戦では◎が並ぶものと思われます。



■日曜京都5Rの新馬戦(芝2000m)は、好位の外を追走した▲ロードアクレイム(3番人気)が直線で早め先頭に立ち、後続の追撃をハナ差凌ぎました。
http://www.youtube.com/watch?v=Mz45YfVPPmw


中盤で13〜14秒台のラップが5ハロン連続で続くという超スローペース。最後の2ハロンが11秒6−11秒3という上がりの勝負でした。1〜3着がハナ、ハナの大接戦で、1、2着はディープインパクト産駒でした。


勝ったロードアクレイムはオークス馬レディパステルの息子。半兄に京都新聞杯(G2)3着のロードロックスター(父ロックオブジブラルタル)がいます。母は数多いトニービン牝馬のなかでも、エアグルーヴ、ノースフライト、ベガに次ぐレベルの大物です。本馬の全兄エアジャクソンは大きな期待を集めた素質馬でしたが、1年前の2月上旬、デビューを目前に控えて死んでしまいました。残念な事故でした。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2009101524/



「ディープインパクト×トニービン」の連対率は34.8%。母の父にトニービンを持たないディープインパクト産駒の28.2%に比べて優れています。ただ、1着8回、2着15回という内容を見ると、決め手に難があるようにも映ります。また、重賞に出走し掲示板に載った馬は、現時点でコティリオンのみ。大物感という点にもやや物足りなさがあります。まだサンプルが少ないので今後変化する可能性は十分ありますが、現時点ではこのような傾向が出ています。昨年6月にアドマイヤカーリンが勝って以来、この配合は28連敗中でした(その間、2着5回、3着4回)。7ヵ月ぶりの勝利です。


母レディパステルはやや頭の高いパワフルな走りで、「Blushing Groom×Dr.Fager」の母ピンクタートルの影響を感じさせるタイプでした。ロードアクレイムの走りにも似たような部分が見受けられます。父ディープインパクトは相手牝馬からパワーを補給したいタイプの種牡馬なので、母方のパワフルな部分がいい方向に作用しているのではないかと思います。


5月11日という遅生まれで、パドックの様子を見るといかにも成長途上といった雰囲気でした。良化の余地は相当残しているでしょう。今後が楽しみです。





アドマイヤムーン産駒らしい切れ味発揮セイクレットレーヴ


 ■土曜東京6Rの新馬戦(芝1400m)は、○カフヴァール(1番人気)が中団から鋭く抜け出しました。
http://www.youtube.com/watch?v=VEqYsb81DZk


最後の2ハロンが11秒5−11秒5という上がりの勝負を、1頭だけ違う脚いろで突き抜けたのですから能力が完全に上でした。稽古の良さをそのまま実戦で活かしました。


父デュランダルは昨年のオークス馬エリンコートの父。マイル以下で活躍した現役時代とは違い、距離面の融通性があります。エアラフォン(関屋記念−2着)、カリバーン(オールカマー−3着)、フラガラッハ(阪神C−3着)など、古馬になってから台頭する子が目立つのも特徴です。新馬戦(芝)の成績は並で、得意でも苦手でもありません。本馬は母の父が Mr.Prospector 系の Gulch で、半兄にリザーブユアハート(函館3歳S)がいる血統。仕上がりの早さはこのあたりの影響でしょう。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2009106202/



配合的なポイントとして挙げられるのは Creme dela Creme≒Lucky Mel 4×5。父デュランダルはサンデー産駒の成功パターンである Gulf Stream≒Heliopolis 5×5という4分の3同血クロスを持っています。Creme dela Creme と Lucky Mel はいずれも Heliopolis の孫。デュランダルの配合的急所を強化する配合なので評価できます。



先述のとおりデュランダル産駒は距離が延びても問題ない子が目立つのですが、この馬はスピード型の配合なのでマイル以下がよさそうです。昇級しても即通用するでしょう。


■土曜東京10RのクロッカスS(2歳OP・芝1400m)は、後方を追走したセイクレットレーヴ(3番人気)が距離ロスのないインを突いて差し切りました。
http://www.youtube.com/watch?v=jpt6lMu0jFQ


東京競馬場のイベントで披露した予想は◎セイクレットレーヴだったので単勝的中。ただし2着キングオブロー(6番人気)には手が回りませんでした。


アドマイヤムーン産駒で、母が「ブライアンズタイム×Sadler's Wells」という重厚な配合。父は素軽いスピードと瞬発力が武器なので、こうしたタイプの繁殖牝馬を料理するのは得意です。母方に Sadler's Wells を持つアドマイヤムーン産駒といえば、今回と同じコースで行われた京王杯2歳S(G2)の勝ち馬レオアクティヴと同じ。同産駒は芝1200〜1400mで最も安定しています。開幕週なので基本的に先に行った馬が有利ですが、飛ばす馬がいるので差せるだろう、という見立てでした。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2009102554/



実際は、この距離にしては落ち着いたペースとなり、決め手勝負となりました。セイクレットレーヴの上がり3ハロンは33秒3。98年のレース創設以来、勝ち馬の上がりタイムとしては最速です。馬場コンディションのいいインをすくったことも勝因でしょう。アドマイヤムーン産駒の切れ味はやはりいいものがあります。





根岸Sはシルクフォーチュン


 最後方追走の▲シルクフォーチュン(4番人気)が最後方から大外一気の差し切り勝ち。伝家の宝刀が冴えました。
http://www.youtube.com/watch?v=U5uZSBlBhWg


根岸Sの追い込み勝ちといえば、00年のブロードアピールを思い出します。良馬場のダート1400mで上がり34秒3、という驚愕の末脚でした。
http://www.youtube.com/watch?v=6xbRmif0atc


シルクフォーチュンはまだその域には達していないかもしれませんが、過去にダート1200mで上がり34秒1、という脚を使っているので、やはり並の馬ではありません。重賞初制覇となった昨年7月のプロキオンS(G3)では、距離ロスを抑えて馬群のなかを縫って追い込んできました。今回は堂々たる大外一気。501mという長い直線だからこそ余裕を持って外に回せたのでしょう。1600mでは脚が溜まらない印象で、以前と違って1200mでは忙しすぎます。この距離が合っていますね。


昨年7月12日のエントリー「異能シルクフォーチュン重賞初制覇」から血統解説部分を引用します。


「ダート短距離の追い込み馬は、“適正距離が本来もう少し長いのではないか?”と思える血統の馬がなりやすいイメージがあります。シルクフォーチュンは『ゴールドアリュール×Alwuhush』ですから、短距離的な匂いはしません。Nureyev 3×3が気性面に影響を与え、極端なレース運びをする要因になっているのかもしれません。父ゴールドアリュールはスマートファルコン、エスポワールシチー、オーロマイスターの父。ダート向きのサンデー系種牡馬のなかではベストです。」
http://blog.keibaoh.com/kuriyama/2011/07/post-1068.html



◎ダノンカモン(1番人気)は5着。能力上位でも確実に勝てるタイプではないのが弱みで、今回は直線でスムーズな競馬ができませんでした。福永騎手のコメントを読むと休み明けの影響もあったようです。







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