パーフェクト種牡馬辞典


ジャパンCダートはトランセンド


 2強対決は○トランセンド(1番人気)に軍配があがりました。1コーナーで強引にハナを奪った時点でほとんど勝負は決したといっていいでしょう。
http://www.youtube.com/watch?v=mp0BX67fYFg

能力がほぼ同等の2頭がダートでマッチレースを行う場合、先に行ったほうがまず勝ちます。ダートは基本的に消耗戦なので、無茶なペースでない限り前にいることがアドバンテージです。自分でペースを作れること、距離ロスがないことも大きいですね。アメリカのマッチレースの歴史がそれを物語っています。旧ブログの11月4日のエントリーにその件について記しましたのでよろしければご覧ください。
http://blog.keibaoh.com/kuriyama/2011/11/post-1a71.html

1コーナーがゴールのビーチフラッグ競技、という譬えは言い過ぎかもしれませんが、脚質が被っている最高クラスの馬同士が戦えば、1コーナーで先頭に立った馬がそのまま押し切る確率が高いですね。今回は内枠の利で◎エスポワールシチー(2番人気)がトランセンドよりも前で競馬をするだろうと考えたのですが、トランセンドの藤田騎手の気迫が尋常ではありませんでした。

「自分の馬が一番強い競馬をするにはハナに行くしかないなと思っていました。1コーナーで行き切ってしまえば勝てるんじゃないかと、この馬を信じていました」

安田調教師は事前の打ち合わせで、藤田騎手から「行ったほうがいいんじゃないですか」との進言があったと証言しています。なにがなんでもハナに立つ、という藤田騎手の決心は相当固かったようです。1コーナーでは内側に入るタイミングがやや早く、クリーンな騎乗で定評のある藤田騎手にしては珍しく審議対象となりました。それもエスポワールシチーを抑え込もうとする闘志の表れでしょう。わたしはエスポワールシチーから馬券を買っていたのですが、この時点でやられたと思いました。

父ワイルドラッシュはダート競馬で大きな存在感を示しています。過去3年間の受胎率が56%と、この点が欠点といえば欠点ですが、底力と成長力を兼ね備えた素晴らしい種牡馬です。トランセンドはその最高傑作。肉体面の充実ぶりはもちろん、レース後は周囲の喧騒に動じることなくどっしりと落ち着き払い、貫録と風格を醸し出していました。精神面の強さも特筆できます。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2006104736/


Bushel-N-Peck≒サニースワップス3×3が配合のキーポイントです。組み合わせ血統表を見ると Khaled、Mahmoud、Dante が共通していますが、Mahmoud の子の Clovelly と Mehrali は4分の3同血(父 Mahmoud、2代母 Uganda)なので、もう少し近い関係です。


そして重要なのは、サニースワップスの母アイアンエイジが「Hyperion と Son-in-Law」の組み合わせで成り立っており、父ワイルドラッシュがこの種の血を取り込んで大物を出す傾向があるということです。中央ではトランセンドのほかにクリールパッション、ブラウンワイルド、地方ではクラーベセクレタ、ヒシウォーシイ、海外では Hollywood Story、Dream Rush などがこのパターンにあてはまります。

おそらくこれは、ワイルドラッシュの母が「Hyperion と Son-in-Law」の組み合わせで成り立つ Flower Bowl と Etonian を抱えており、それと呼応するからでしょう。とくに Flower Bowl とアイアンエイジは、いずれも2代父が Hyperion、母の父が Beau Pere という似た構成です。


底力や成長力など、トランセンドの美点の多くがこの部分に負っていると思います。前田幸治オーナーによれば、暮れの東京大賞典は使わずフェブラリーSからドバイという昨年同様のローテーションになるとのこと。ただ、藤田騎手は「1600mは苦手分野」と語っていました。「いまはもう少し長い距離のほうがいい」とも。馬券を買う側からすると、付け入る隙のある条件のほうが面白味があります。

エスポワールシチーはゴール直前で差されて3着。勝ちに行った結果なので仕方がないでしょう。1コーナーでトランセンドに先に行かれてしまったのは脇が甘かったわけではなく、純粋にダッシュ力の差ですね。いつものようなスッと伸びる二の足がなかったような気がします。





鳴尾記念はレッドデイヴィス


 鳴尾記念(G3・芝1800m)は“復活”がテーマとなることの多いレースです。秋シーズンに天皇賞・秋や菊花賞などの王道路線にいったん進んだものの、夢破れてG1路線から降りたようなタイプがここで甦るシーンを毎年のように目にします。

今年は休み明けの△レッドデイヴィス(4番人気)が勝ちました。「今年は」と書きましたが、去年も休み明けのルーラーシップが勝っているので、このパターンが2年連続で優勝したことになります。新たなトレンドとなるのでしょうか?

ハンデ戦だった時代(05年まで)よりも現在はレースの格が上がっており、G2といっても違和感がありません。レッドデイヴィスは+20キロの馬体重。さすがにゴール前では止まったものの、しっかり勝ち切るところが非凡さの証明です。この水準のレースを休み明けで勝てる馬は文句なしに強いといえます。相手が本格化前とはいえオルフェーヴルに先着した実績は本物でした。
http://www.youtube.com/watch?v=wI3W-wS0cYc

厩舎によって仕上げの流儀が違うので、休み明けで走る/走らないという傾向はたしかに存在します。以前、「半年以上の休み明けでどの厩舎が走るのか」を研究したことがあります。そして、音無厩舎が優秀であるという結論に達しました。07年以降の約5年間で連対率33%。この数字は飛び抜けて良かったという記憶があります。予想の段階でこの事実をすっかり忘れていました^^

菊花賞(G1)とメルボルンC(G1)を勝ったデルタブルース(父ダンスインザダーク)は、母ディクシージャズの半弟です。ディクシースプラッシュのファミリーはこれで2頭の大物を出したことになりますが、デルタブルースは引退後に乗馬となり、レッドデイヴィスはセン馬なので、両馬とも血は残せません。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2001103389/


父アグネスタキオンは素軽さと瞬発力が最大の武器です。大レース向きの産駒を作るには母方にヨーロッパの重厚な血を入れるのが近道です。トニービン、Dixieland Band、Alleged を並べた母ディクシージャズは申し分なく、Halo≒Sir Ivor 3×5で締めている点も好感が持てます。折り合いといった問題はともかく、血統的には距離が延びてもまったく問題ありません。もし有馬記念に出てきたら侮れないと思います。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008103235/


◎フレールジャック(2番人気)については、鞍上の福永騎手が「前回行かせた分、ハミが抜けませんでした」(ラジオNIKKEI競馬実況web)とコメントしています。菊花賞の先行策が思いのほかダメージとなっているようです。こうした癖がつくと買いづらくなりますね。





強すぎるクロスの活かし方


 今年のアルゼンチン二冠牝馬 Balada Sale(通算6戦5勝)は、3代母 La Bambuca が Bambuca 2×2という特殊な牝馬クロスを持ちます。
http://www.pedigreequery.com/balada+sale



クロスさせる血は極力優れたものでなければいけません。劣った血の強いクロスは逆効果となります。クロスさせた Banbuca という牝馬は、アルゼンチンの大レースを勝ちまくり、19戦13勝という成績を残しました。生産者はその優れた資質を子孫のなかに再現したいと願ったのでしょう。


Bambuca 2×2の La Bambuca は、繁殖牝馬としてエストレジャス大賞ジュニアスプリント(亜G1・ダ1000m)を制した Leyden、同レース2着の La Baraca を送り出しました。冒頭に記した Balada Sale は後者の孫です。


La Bambuca の系統からはもう1頭、エストレジャス大賞ジュヴェナイルフィリーズ(亜G1・ダ1600m)の勝ち馬 Miss Bamba が出ています。2着に6馬身差をつける圧勝で、通算2戦全勝ですから、どれだけ強い馬だったのか分かりません。
http://www.pedigreequery.com/miss+bamba



Balada Sale も、アルゼンチンオークスに相当する前走のセレクシオン大賞(亜G1・ダ2000m)を11馬身差で勝っているので、これも相当な器でしょう。
http://www.youtube.com/watch?v=XwGqphMQ1Iw


Bambuca 2×2をルーツとするこのファミリーの活力はいまだに衰えていません。強すぎるクロスは競走馬としてうまく行かないことが多く、2×2で成功したのは凱旋門賞を勝った女傑 Coronation ぐらいでしょうか。こうした特殊な凝縮は母方に潜って花開く傾向があるように思います。


たとえば、70年代末から80年代前半にかけて地方競馬を賑わしたタガワ四兄弟(タガワエース、タガワキング、タガワテツオー、タガワリュウオー)は、その2代母にトキツダイヤという異様な配合構成を持つ馬を抱えていました。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/000a0034f9/



オートキツ≒ハッピーダイヤ1×2であり、トキツカゼ=クモノハナ≒ヘーレンソール2×2・3でもあります。トキツダイヤの娘コーホールは父母双方がほとんどゆかりのないアウトクロス馬で、どういう遺伝の加減かは分かりませんが、何を交配しても地方競馬の重賞勝ち馬を出すという名繁殖牝馬となりました。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1977102855/



血統表を眺めると、2代母トキツダイヤの部分にのみ特殊な凝縮があります。4頭いる祖父母の1頭なので血量的には4分の1です。笠雄二郎さんの「4分の1異系配合」という考え方は、こうした配合パターンをすっきり説明することができます。詳しくは『サラブレッド配合史』と『血統論』をご参照ください。
http://www.miesque.com/c00001.html


強度のクロスについては、『栗山求 Official Website』の「Works」にある「黎明期の血統」にて考察しています。初出は92年春なので約20年前です。やや長いのですがこの項の締めくくりとして引用したいと思います。
http://www.miesque.com/motomu/square9.pdf


 ……黎明期の配合の特徴を一言で表現すれば「インブリードの繰り返し」であり、もちろん「アウトクロス」ではない。なぜならアウトクロスが有力だとすれば、いつまでもアラブやタークをはじめとする輸入馬の流入は止まならなかったはずで、内国産馬の資質向上はもちろんサラブレッドという種の成立もありえなかったはずである。
 現代のサラブレッドは長年にわたる淘汰によって均質化し、各馬の能力的ばらつきは小さくなっている。それに比べると当時は「優れた馬」と「そうでない馬」との差が大きかった。それこそ上等な輸入アラブから馬車馬まで繁殖に供されていたからである。こうした状況で走る馬を生産しようとした場合、優れた血を単純にインブリードさせることがもっとも手っとり早く効果的だった。Old Morocco Mare のケースはその極端な例といえる。
 1×2、2×1という配合は現代から考えるといかにも異様だが、英国の競馬評論家ピーター・ウィレットはその著書『THE CLASSIC RACEHORSE』のなかでこう述べている。革命的な成果を挙げた18世紀の牛や羊の品種改良がそうであったように、当時の馬産家たちは繁殖牝馬の能力向上のためなら近親交配をためらわなかった、と。事実、当時の血統表を見ると、2×2、2×3といった現代ではほとんど見ることのできないインブリードが頻繁に試みられていたことがわかる。
 血脈が多様化し、競走馬の能力が均質化した現在では、強度のインブリードを施したとしても、その効果を昔ほどには期待できないかもしれない。成熟した血脈のなかでは、アウトクロスやアウトブリードなどその他の手法も有効なのである。
 ただ、現在のアメリカのように血脈の多様化が極端に進むと、いずれ固定化の重要性も再認識されることだろう。サラブレッドの配合の歴史というものは、長い目で見ると「固定化」と「多様化」の繰り返しであり、この間を振り子のように往ったり来たりしながら、種全体として徐々に前進していくのだと思われる。〔引用終わり〕





映画『マネーボール』を観る


 大リーグの裏側を舞台とした野球映画です。「セイバーメトリクス」という革新的な選手評価方法を信奉するゼネラルマネージャーが、旧来の価値観とぶつかり合いながら貧乏チームを立て直していく、というストーリーで、主人公のビリー・ビーンをブラッド・ピットが演じました。

個人的にはここ20年ぐらい野球に対して興味が湧かないのですが、この映画は楽しく見ることができました。原作については『血統屋』の配合診断ページで触れています。
http://www.miesque.com/shindan.html

サブタイトルは「The Art of Winning an Unfair Game」、すなわち「不公平なゲームに勝つコツ」です。作品に心を惹かれたのはこの部分ですね。

プロスポーツはおおむね資本の勝負です。馬産も同様です。大手は金とノウハウがあり、選りすぐりの繁殖牝馬と名種牡馬を擁しています。それらを持たない中小の生産者や馬主にとっては「不公平なゲーム」でしょう。大手と同じことをしていては永遠に差は縮まらず、そもそも大手と同じことをするだけの金銭的余裕もありません。

ではどうするか? お金がなければ知恵を絞るしかありません。大仕事をやってのけるには発想の転換が必要で、野球における「セイバーメトリクス」に相当するものが馬産においては「配合研究」であるとわたしは考えます。最小の資本で最大の効果を挙げるにはこれしかありません。

主人公ビリー・ビーンの娘がギターを弾いて歌う「The Show」は、この映画のテーマソングで、なかなかいい味を出しています。
http://www.youtube.com/watch?v=M_-qbbCsAeM

オリジナルのヒットソングを歌ったのは Lenka。彼女にはライブで披露する「Vincent O'Brien」という持ち歌があります(オリジナルは M.Ward の作品)。ヴィンセント・オブライエンとはいうまでもなく Nijinsky、Sir Ivor、Alleged、The Minstrel、Sadler's Wells などを管理したアイルランドの名調教師。ただし、歌詞の内容は競馬とは一切関係なく、単なる偶然の一致です。





単勝万馬券だがフロックではないマウントビスティー


 ■日曜東京5Rの新馬戦(芝2000m)は、好位追走の△サトノプライマシー(2番人気)が抜け出し、外から迫る◎ジャングルクルーズ(1番人気)をクビ差しりぞけました。11秒5−11秒2−11秒5という速い上がりに対応した1、2着馬が3着以下を6馬身ちぎる、というマッチレースでした。
http://www.youtube.com/watch?v=E7xyLMgImRM

「ネオユニヴァース×ティンバーカントリー」というパワー型の配合。母エアピースは関東オークスの2着馬で、全兄リバティバランス、半兄ピースデザインもダートで準OPまで出世しました。ウッドコースでそこそこの時計を出してはいたものの、芝戦では正直微妙ではないかと考えて印を落としました。芝でこんなに走るとは……というのが感想です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2009105739/


母方にヌレイエフを持つネオユニヴァース産駒には、ロジユニヴァース、ゴールスキー、アイアムネオなどがおり、まずまず成功しています。血統的にはダート向きながら前肢がよく伸びるフットワーク。全兄リバティバランスもじつは似たようなフットワークですが、両者の適性に差が生じているのは、絶対能力の違いも理由のひとつでしょう。

パドックでは馬っ気を出して若さをのぞかせていましたが、レースでは馬群のなかでしっかり折り合い、ゴール前では競り合いに勝つ根性を見せました。1、2着馬はどちらも強いと思います。血統的には中山のほうが合っており、将来的には中山芝2500mあたりがベストになるのでは、と思います。暮れの中山最終日、ホープフルS(2歳OP・芝2000m)に出てくるようなら怖い1頭です。大きく条件が好転するので一発があっても不思議はありません。

■東京3Rの未勝利戦(芝1400m)は、単勝158.2倍のマウントビスティー(14番人気)がマイペースで逃げて後続を突き放しました。
http://www.youtube.com/watch?v=ReXT9w6ZqIo

同距離で行われた1週前の奥多摩S(1600万下)が1分21秒6で、このレースが1分21秒8ですから、かなり優秀ではないかと思います。デビューから3戦、いずれもダートを使って4→8→12着。前走は勝ち馬から4秒1離される大惨敗でした。芝で驚きの一変です。

フジキセキが Deputy Minister とニックスの関係にあるのはたびたび記してきたとおりです。カネヒキリ、ミラクルレジェンド、デグラーティア、カラフルデイズ、ホーマンフリップ、エイブルインレース……。G1優勝馬2頭を含めて多くの活躍馬が出ています。本馬の母の父フレンチデピュティは Deputy Minister 産駒なのでこのパターンにあてはまります。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2009101010/


また、母方に Princely Gift を持つパターンも成功例が目立ちます。ダイタクリーヴァ、ドリームパスポート、オースミコスモ、タマモホットプレイ、フジサイレンス、トウショウアンドレ、ウェディングフジコ……。

成功パターンをダブルで持つマウントビスティーは、『競馬王のPOG本』の「栗山ノート」で取り上げた馬でもあり、配合的に申し分のないクオリティです。フロックではないので昇級戦でも即通用するでしょう。







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